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79、『皇帝』<『神』<『小太り男性』
しおりを挟む祠での生活は3週間ほど経過していた。
俺のレベルは2,000を超え、魔王を軽く凌駕するほどに強くなっている。
魔法陣での作業は反則級に楽だった。
胡座をかいたままで、動かすのは右手のみ。
昼夜問わず、ひたすら投げ続けた。
気付いたら寝落ちしてることもしばしば。
召喚しては投げ、召喚しては投げ‥‥‥。
ある程度倒したら、落ちた金と石を回収する。
この単純作業の繰り返しで『力』や『魅力』などのステータスが、何故上がるのか教えて欲しいものだ‥‥‥。
ちなみに、どこかの国の国家予算を超えたあたりから、お金は数えるのをやめました。
いくら財布に入ってるのかわかりません。
おそらく、もう使い切るのは不可能だろう‥‥‥。
──引きこもって石を投げてるだけ。
これで、魔王を超える強さを手に入れたのだから、この魔法陣の恐ろしさはとんでもない。
「ふあぁ‥‥‥、おはようダーリン」
目をゴシゴシしながら、魔法陣の部屋に入ってきたイレイザ。
「‥‥‥ああ、おはよう」
窓の外を見ると朝の光が差し込んでいた。
また徹夜してしまったようだ。
「また、寝ないでスライムゴッド倒してたの? ダーリンの根気は凄いわ」
「『神様』は素晴らしい」
実は祠に籠ってからわりと早い段階で、召喚するモンスターが『皇帝スライム』から『スライムゴッド』様に変わっている。
レベルが1,000を超えたあたりから『皇帝』の経験値では、なかなかレベルが上がらなくなってきたので、俺は魔法陣である実験をした。
──経験値が1番高いスライムをお願いします!
そう願いながら魔法陣に魔力を送って、現れたのが『スライムゴッド』様。
拳くらいの大きさで、赤色の丸いボディ。小さな羽根が生えており、基本的に飛んでいらっしゃいます。
一見可愛いらしい感じだが、神の名は伊達じゃない。
『ゴッド』様の経験値は51,960,960。
しかも軽く石を投げるだけで、消滅してくれます。
‥‥‥いったいどこからおいで頂いてるのでしょうか?
是非、生息地をお聞きしたいところだが、やはり言葉は話せない様子。
『スライムゴッド』という名前を教えてくれたイレイザ曰く、生息地不明の伝説のモンスターらしい。
「『神様』は素晴らしい!」
「私は最近、ダーリンと一緒に寝れないから寂しいわ」
胡座をかく俺の足の上に、勝手にちょこんと座っているイレイザ。
‥‥‥尻尾が顔のあたりにペチペチ当たって、くすぐったい。
「‥‥‥そもそも、一緒に寝ないから」
イレイザを足から下ろし、立ち上がって窓の外を眺めながら背伸びをした。
──朝日が眩しい。
今日もお仕事頑張りました。
「おはようサトシ。‥‥‥あんた、また寝てないね」
「お腹空いた」
魔法陣の部屋を出ると、朝食を作ってくれてるアリスさんが声をかけてきた。
──なんといい匂いでしょう。
「‥‥‥私はあんたのお母さんじゃないよ。あと、人の質問にはちゃんと答えようね。規則正しく寝ないと大きくなれないよ」
お母さんじゃないと言いながら、お母さんみたいな事を言うアリスさん。
「アリスさんがいてくれて本当に良かった」
俺がレベル上げに集中できるのは、この人のおかげと言っても過言ではない。
「‥‥‥あんた、私をご飯作る人と思ってないでしょうね?」
「そんな事、ある訳ないでしょう!」
テーブルをバンと叩いて抗議する俺。
「この歳で、ご飯作るだけのお母さんみたいになるのは嫌だよ」
テーブルに、焼いたパンと卵料理を並べながらアリスさん。
──言えない。
美味しいご飯を食べれるようになる方法を考えながら、魔法陣に手をついたら召喚しちゃってたなんて、絶対に言えない。
「えっと、アリスさんっておいくつですか?」
「‥‥‥それを今更聞くか?」
珍しく、ちょっとムスッとしてるように見えるアリスさん。
やはり、女性に年齢を聞くのは失礼だったかな?
「‥‥‥歳を言い出したのは、そっちじゃないですか」
「まあ確かに‥‥‥。さあ、早く食べてちゃんと寝なさいよ。身体を壊したら元も子もないんだからね」
そう言うとアリスさんは、隣の部屋に移動していった。
‥‥‥怒らせてしまったかな。
ある日の昼下がり。
魔法陣の前で、いつものように1人で座っている俺。
「‥‥‥さて、実験を始める」
祠でのレベル上げは順調だ。
『天使ちゃん』にも、もしかしたら通常状態で勝てるくらい俺は強くなったかもしれない。
しかし、女神様からなんの連絡もないため祠から出ることもできず、待機状態である。
強くなり少し調子に乗ってしまっている俺は、冒険心を抑えられなくなっていた。
今回の実験は『スライムゴッド』様より、経験値が多いモンスターの召喚。
──成功したら、レベル上げの効率がもっと良くなるぞ。
とんでもないのが出てきたらやばいので、石を構えながら魔法陣に手をついた。
「さあ、いでよ! 最高の経験値よ!」
パシュゥ!
「‥‥‥えっ?」
先制攻撃を入れようと、振りかぶっていた腕を咄嗟に止める俺。
「‥‥‥誰だよ」
現れたのは青いモコモコのパジャマを着た、気持ちよさそうにヨダレを垂らし眠る30代くらいの男性。
寝る時にかぶる三角の、トンガリ帽子をかぶっている。
そして部屋中に響き渡る大きなイビキ。
なんでこの人、こんな真っ昼間から寝てんだろう‥‥‥。
「‥‥‥ないわー。この人が最高の経験値とか‥‥‥絶対ないわー」
たるんだ身体をした小太りの男性。
どう見ても弱そう。
まず、経験値があるとはとても思えない。
そもそも、人を召喚してどうすんだよ‥‥‥。
実験は完全に失敗だ。
何か雑念が入ったんだろうな‥‥‥。
「‥‥‥はっ! こ、ここは何処で御座る!」
──あ、やばい! 目を覚ました!
立ち上がりオロオロと辺りを見渡す、たるんだ身体の男性。
なんかモコモコパジャマが情け無い。
目覚める前に、祠の外にでも捨てようと思ってたのだが‥‥‥。
「あの落ち着いてください。ちょっと手違いで召喚しちゃいまして‥‥‥」
「‥‥‥ぎゃあーー!!」
俺の姿を見て、腰を抜かし倒れる小太り男性。
──あ、マスクしてないや。
小太り男性は、倒れ込むとそのまま動かなくなった。
「あの、大丈夫ですか?!」
近づいて揺すってみたが、まるで動かない。
どうやら気絶してしまったようだ。
‥‥‥いや、マジでこの人どうしよう。
──実験なんてしなきゃ良かった。
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