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第4章:想いの章 〜学園生活の出来事〜
第一三二話 女性固有のもの
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ホテルを後にした車内。 それまで賑やかだった後部座席が、ふと静まり返った。
「……痛い。これ、来るわね」 八重が眉間に皺を寄せ、下腹部をさするように呟く。隣に座る香織も、どこか顔色が優れない。
「私も……昨夜から予感はあったんだけど。あ、これ、本格的に痛いかも……」
八重が助手席の嘉位に声をかけた。
「香織の旦那、悪いけどお願い。近くにドラッグストアがあれば寄ってもらえるかな。薬を準備しておきたくて」 「わかった。……付近にドラッグストアか薬局はありますか?」
嘉位の問いに、運転手が即座に答える。
「ショッピングモールの中が一番近いです。十五分ほどで到着します」
***
車がモールへ滑り込むと、香織と八重は連れ立ってドラッグストアへ向かった。 嘉位と由良の二人は、その間、時間を惜しむように近くの書店へ足を運ぶ。
「……由良、女の子の『アレ』だな」
「ああ。二人同時か。……せっかくの書店だ、少し知識を入れておくか。俺は左の棚から、嘉位は右から」
二人は棚に並んだ「女性の医学」や「家庭の看護」といった専門書や実用書を手に取った。 ページをめくる速度は常人のそれではない。パラパラと流れるように、しかし一字一句を漏らさず暗記していく。三十冊ほどの本を数分で読破し、二人は平然と店を出た。
ドラッグストアのレジ前では、香織たちが会計を待っていた。 そこへ嘉位が、慣れた手つきで鎮痛剤を二箱と、常温のミネラルウォーターを二本持って現れる。
「これ、一緒に。……香織、飲み物も必要だろう?」
「嘉位……ありがとう!」
嘉位が手際よく会計を済ませ、香織と八重は手早く薬を服用した。
「……助かったわ。あと四十分もすれば効いてくるはず」 八重が大きく息を吐き、嘉位を見上げた。 「キャプテン、気が利くわね。流石だわ」
「いや、僕だけじゃないよ。由良もさっきの書店で、女性の医療知識を三十冊分ほど頭に入れてきたからね」 香織が目を丸くする。 「えっ? ほんの十分くらいだったのに……全ページ暗記したの?」
「ああ。ざっとね」
八重と香織は顔を見合わせた。
「……やっぱりあんたたち、人間じゃないわよね?」 八重の呆れたような、それでいて感心したような笑い声が響き、四人は再び車に乗り込んだ。
***
車内では、女子特有の隠し事のない会話が始まった。
「明日からのテスト期間中、一番重い時期と重なりそう。辛いなぁ」
「私も同じくらい。金曜には終わるかしら……」
「こればっかりは辛さを共有できないからな」と由良が静かに口を開く。
「無理をしないで薬に頼るくらいしかできないけれど……あまり酷いようならすぐ言ってくれ」
「ありがとう。私はまだ軽い方なんだけど、友達のみーちゃんは本当に酷いって言ってたわ。どばっと出る感じで……」
「……香織、そこまで具体的な解説は不要だ。……いや、知識としては入れたけれどね」 由良の困惑した表情に、八重が笑いながら話題を転換した。
「話変わるけど。私、金曜にテストが終わったら由良を両親に紹介しようと思うの。由良、いいわよね? 帰りにうちに来て」 香織が我が事のように目を輝かせる。
「八重、頑張ってね!」
「任せときなさい!」
そんな賑やかな会話を挟みつつ、八重と由良をそれぞれ送り届け、嘉位と香織は屋敷へと戻った。
***
部屋に入ると、香織が申し訳なさそうに嘉位を見た。
「嘉位……ごめんなさい。今週は、お風呂も別々になってしまうわ」
「うん、こればかりは仕方ない。……これもまた、良い訓練だよ。僕にとっては我慢の訓練だ」
「訓練?」
「ほら、野球部の遠征や大会になれば、男女は別だろう? デートもできないし、顔を合わせる時間も限られる。その時の予行演習だと思えばいい」
「……ええっ! 遠征ってそうなの? 知らなかった……」 ショックを受ける香織に、嘉位が優しく微笑む。
「だから、僕も我慢を覚えるよ。香織、お風呂を済ませたら今日は早めに休もう。夜中に起きても、僕のことは気にしなくていいから」
「……ありがとう」
「ああ、そうだ。部屋のトイレの棚に、必要なものは用意させておいたからね。足りなければメイドさんに言えばすぐに箱を用意してくれる」
香織は、嘉位のどこまでも行き届いた配慮に胸がいっぱいになった。
「あ、それから香織。一つ頼まれてくれるかな」
「はい、何でも言って」
「お正月に蓬田の家で頂いた、あの祝い酒。あれを木曜日に一箱届けてほしい。金額は厭わない、一番いいやつを。……それと、金曜の午前着で、同じものを二本、八重さんの実家へ送っておいてくれるかな」 八重が由良を両親に紹介する、その日のために。
香織は嘉位の深い思いやりに、最高の笑顔で答えた。
「はい! お任せください、だ・ん・な・さ・ま!」
夕食を終えた二人は、それぞれの体調を労わりながら早めにベッドに入った。
共に眠る幸せを噛み締めながら...
「……痛い。これ、来るわね」 八重が眉間に皺を寄せ、下腹部をさするように呟く。隣に座る香織も、どこか顔色が優れない。
「私も……昨夜から予感はあったんだけど。あ、これ、本格的に痛いかも……」
八重が助手席の嘉位に声をかけた。
「香織の旦那、悪いけどお願い。近くにドラッグストアがあれば寄ってもらえるかな。薬を準備しておきたくて」 「わかった。……付近にドラッグストアか薬局はありますか?」
嘉位の問いに、運転手が即座に答える。
「ショッピングモールの中が一番近いです。十五分ほどで到着します」
***
車がモールへ滑り込むと、香織と八重は連れ立ってドラッグストアへ向かった。 嘉位と由良の二人は、その間、時間を惜しむように近くの書店へ足を運ぶ。
「……由良、女の子の『アレ』だな」
「ああ。二人同時か。……せっかくの書店だ、少し知識を入れておくか。俺は左の棚から、嘉位は右から」
二人は棚に並んだ「女性の医学」や「家庭の看護」といった専門書や実用書を手に取った。 ページをめくる速度は常人のそれではない。パラパラと流れるように、しかし一字一句を漏らさず暗記していく。三十冊ほどの本を数分で読破し、二人は平然と店を出た。
ドラッグストアのレジ前では、香織たちが会計を待っていた。 そこへ嘉位が、慣れた手つきで鎮痛剤を二箱と、常温のミネラルウォーターを二本持って現れる。
「これ、一緒に。……香織、飲み物も必要だろう?」
「嘉位……ありがとう!」
嘉位が手際よく会計を済ませ、香織と八重は手早く薬を服用した。
「……助かったわ。あと四十分もすれば効いてくるはず」 八重が大きく息を吐き、嘉位を見上げた。 「キャプテン、気が利くわね。流石だわ」
「いや、僕だけじゃないよ。由良もさっきの書店で、女性の医療知識を三十冊分ほど頭に入れてきたからね」 香織が目を丸くする。 「えっ? ほんの十分くらいだったのに……全ページ暗記したの?」
「ああ。ざっとね」
八重と香織は顔を見合わせた。
「……やっぱりあんたたち、人間じゃないわよね?」 八重の呆れたような、それでいて感心したような笑い声が響き、四人は再び車に乗り込んだ。
***
車内では、女子特有の隠し事のない会話が始まった。
「明日からのテスト期間中、一番重い時期と重なりそう。辛いなぁ」
「私も同じくらい。金曜には終わるかしら……」
「こればっかりは辛さを共有できないからな」と由良が静かに口を開く。
「無理をしないで薬に頼るくらいしかできないけれど……あまり酷いようならすぐ言ってくれ」
「ありがとう。私はまだ軽い方なんだけど、友達のみーちゃんは本当に酷いって言ってたわ。どばっと出る感じで……」
「……香織、そこまで具体的な解説は不要だ。……いや、知識としては入れたけれどね」 由良の困惑した表情に、八重が笑いながら話題を転換した。
「話変わるけど。私、金曜にテストが終わったら由良を両親に紹介しようと思うの。由良、いいわよね? 帰りにうちに来て」 香織が我が事のように目を輝かせる。
「八重、頑張ってね!」
「任せときなさい!」
そんな賑やかな会話を挟みつつ、八重と由良をそれぞれ送り届け、嘉位と香織は屋敷へと戻った。
***
部屋に入ると、香織が申し訳なさそうに嘉位を見た。
「嘉位……ごめんなさい。今週は、お風呂も別々になってしまうわ」
「うん、こればかりは仕方ない。……これもまた、良い訓練だよ。僕にとっては我慢の訓練だ」
「訓練?」
「ほら、野球部の遠征や大会になれば、男女は別だろう? デートもできないし、顔を合わせる時間も限られる。その時の予行演習だと思えばいい」
「……ええっ! 遠征ってそうなの? 知らなかった……」 ショックを受ける香織に、嘉位が優しく微笑む。
「だから、僕も我慢を覚えるよ。香織、お風呂を済ませたら今日は早めに休もう。夜中に起きても、僕のことは気にしなくていいから」
「……ありがとう」
「ああ、そうだ。部屋のトイレの棚に、必要なものは用意させておいたからね。足りなければメイドさんに言えばすぐに箱を用意してくれる」
香織は、嘉位のどこまでも行き届いた配慮に胸がいっぱいになった。
「あ、それから香織。一つ頼まれてくれるかな」
「はい、何でも言って」
「お正月に蓬田の家で頂いた、あの祝い酒。あれを木曜日に一箱届けてほしい。金額は厭わない、一番いいやつを。……それと、金曜の午前着で、同じものを二本、八重さんの実家へ送っておいてくれるかな」 八重が由良を両親に紹介する、その日のために。
香織は嘉位の深い思いやりに、最高の笑顔で答えた。
「はい! お任せください、だ・ん・な・さ・ま!」
夕食を終えた二人は、それぞれの体調を労わりながら早めにベッドに入った。
共に眠る幸せを噛み締めながら...
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