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魔性の再来
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「...? イオス!イオス?!」
レイがイオスを抱き抱えた。
同時に水の精霊がどこからか現れた。
ごく稀に精霊と精霊が称号を付けた人間は感情や気分を強く共鳴させる事がある。精霊の称号の持つ者の情緒が不安定な時、精霊もそれに応じて暴走するのだ。
雨がさらに強く降り始める。水の精霊は水渦を纏い家の屋根や馬車などを巻き込み始めた。
街の人々が叫び、逃げ惑う。
水の精霊が暴走し大きな力を駆使する度に、イオスが苦しそうに呻き、口から少量の血を吐くのでレイは青くなった。
レイは走って民家の屋根下の壁にそっとイオスをもたれかけさせると水の精霊の前に出た。
そして雨を浴びるように胸を広げて水の精霊を見た。
「〈ユニーク魔法 シグナ・ケーナ〉」
水の精霊とそれに纏う膨大な魔力とエネルギーがレイに向かって集中的に吸い込まれていく。
これはレイ特有のユニーク魔法である。
強制的に自身の肉体を生贄とし何かしらの存在を自身の体に受肉させる事が可能なスキルである。
その魔法を持っていた事が、幸運か否か、レイが苦しそうに呻いた。それはレイの心臓を中心にしてとぐるぐると吸い込まれた。
それを見たイオスが、驚いて動くが体の力が抜けているようで、べちゃりと雨で濡れる地面に体を潰れさせてしまう。
「ダメだ!ダメ、だ!レイやめっー!ごほっ、っ!」
泣きながら叫んでも結局結果はかわらない。
レイの銀髪が水色や青色に変化して行く。
レイが、いやレイさんの姿をした水の精霊がその場にばたりと倒れた。辺りは最初と同じく静まり返っている。いつの間にか雨も止んでいた。
レイに水の精霊が受肉した瞬間である。
イオスがフラフラと走り出してレイを抱きかかえて、君はなんてバカなんだと滅茶苦茶な事を叫びながら号泣した。
俺は見てられなかった。あまりにも経緯が壮大で、レイさんに受肉した水の精霊が何故これを俺に魅せたのかも分からなかった。
しかし俺は彼らの様子を見て、これが過去であり無駄だと分かっていながら、思わず言ってしまったのだ。
「水の精霊さん。僕のとこにきませんか」
また辺りが白い閃光に包まれた。
眩しさに目が眩んで目を瞑ると、そこは公爵邸の中で、俺の下にうつ伏せになって倒れているレイさんがいた。水の精霊ではなくレイさんご本人である。
挙動不審になりながら前を向くと同じく力尽きて倒れているイオスが居た。
俺とカイさんとデルタさんは同じく、一瞬にして起きたよくわからない光景に戸惑っていた。
何やらイオスの公爵邸での騒ぎは、何とも奇妙な形で幕を閉じたのだ。
***
俺には毎朝することがある。
それはイオスの様子を見に行く事だ。
例の一件があってから、イオスは目を覚ましていない。彼がぶっ倒れてから毎日、俺はこっそりとイオスを見に行っている。最初は我儘な奴だとか思っていたが、あんな過去を見てからだと情が湧くという物である。
イオスは、ヒドロ公爵邸の2階の豪華なベットに寝かせられている。
俺がどうやってヒドロ公爵邸に行っているか?
それは闇の精霊さんにお願いをしたのだ。
これは少し前に遡る。
あの後デルタさんがレイさんを回収して、イオスの護衛がイオスを回収して...俺はカイさんに早く自室に戻れと促されて...その後は記憶が少しあやふやである。
朝起きて仕事服に着替えて、デルタさんに今日の仕事を聞いている時に、俺は聞いたのだ。イオスとレイはどうなったのかと。
「イオス様は未だ意識が戻っておらず、レイ様は意識は戻りましたが____っ、すみません、この事はカイ様に口止めをされていて...」
なんて言われてしまったのだ。
レイさんの事は触れるな、なんて感じなので、俺は諦めて仕事に向かう。今日の仕事は城の掃除である。
布巾で窓を拭きながら考える。
気になるのはイオスと水の精霊の所存。
どうやら俺は水の精霊によって過去に干渉をしたみたいだ。その影響からか、レイさんは分からないけれど、イオスは倒れて水の精霊はどこかに消えて...考えてもキリがない。
その時俺の唇に指を置かれた。
「んむっ」
『私の刻印者が悩む所を見てられないよ。
蓮、私とこっそりイオスを見に行かない?』
現れたのは闇の精霊である。
急に目の前に現れるのは心臓に悪いのでやめて欲しい。そんな感じで、俺は闇の精霊と毎朝こっそりとヒドロ公爵邸にワープしているのだ。
「今日もイオスは起きる気配がないですね...」
テラスの窓ガラスにピタリと張り付いて、イオスの様子を伺う。寝ているようにしか見えない。
『...ふぅん、蓮も分かってるんじゃないの?
蓮は世界の理に干渉しちゃったんだよ』
闇の精霊がにやにやしながら俺に声をかける。
ならイオスの意識が戻らないのもレイさんの件で公爵家の人たちが変な顔をしているのも、俺が勝手に過去を弄ったから?ならあれを見過ごすのが正しかったのだろうか?全て、俺のせいなのか?俺...どうしたら...
『あは!蓮はかわいいね。そんな事で自分を咎めちゃうんだ...たかが人間の1人や2人、君の存在価値に比べたらどうってことないでしょ?』
闇の精霊がそっと両手で俺の目を塞いだ。
しかしイオスやレイさんが俺と関係ないからといって、レイさんはカイさんのお兄様だし、イオスだって誰かにとって大事な人である。
それを たかが なんて言葉で片付けられて俺はカチンときた。
俺は雑に闇の精霊の手を払い除けて彼に言う。
「僕、仕事に戻ります。闇の精霊さん連れてって。」
闇の精霊は俺の言葉にまたにこりと優しい笑みを返す。この何を考えてるかイマイチ分からない笑顔が少し苦手と同時に魅力的だと思ってしまうので、俺は自身のこの能天気さが嫌になった。
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