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4話:八椿村の番犬(2)
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「あ~~~」
負けて悔しいコウスケは大の字になって寝っ転がる。
「勝てねぇ!」
「普段ゲームをしない、と言ってる割に強いんだよな……」
俺はふと、思い当たったことをコウスケに尋ねた。それは、あまりにも脈絡がない。
「コウスケ……これは現実なのか?」
「哲学みたいだなぁ。なぜ、疑問を持った?」
コウスケのその黒い瞳は俺の考えを見透かそうと真っ直ぐ見つめてくる。
「む、村に帰ってきてから生々しい夢を見るんだ……。
コウスケを手にかけたり、いや、コウスケだけじゃないんだ。ユイ姉もリンも。まるで手から零れていく砂のように、夢の中で命を散らしていく」
コウスケは黙って話を聞いている。
「眠るのが怖い」
俺はポケットの中から赤い鈴を取り出した。
ちりん、と静かに鳴る赤い鈴は、今や光沢を失って、元々付属していた紐は解れてき始めて、輪となっている部分はちぎれている。
コウスケもどこからか青い鈴を取り出した。これは、俺が村を出る数日前──神社へ遊びに行ったら神主であるアケミさんから手渡された鈴だった。村を出ていった俺の、村との、みんなとの繋がりを感じる唯一の品。
「あまりにも現実が平和で……理想的すぎて、実はこっちが夢なんじゃないかって」
目の前で寝そべっていたコウスケは急に起き上がると、俺の傍に寄ってきた。すると、俺の髪をくしゃと触って乱す。
「なっ……」
「アキラ。これは、現実だよ」
ゆっくり触られる感覚は心地よいものだった。
──これは、現実。
感覚があることだけが現実とは限らない。しかし、コウスケが発する言葉は、夢か現実か分からなくなったなら、心地の良い方を現実だと思い込めば良いという暗示に近いものだった。
「そっか、これが現実なんだな──」
「これでもまだ怖いなら、夜は一緒の布団で寝るか?」
その言葉を述べているコウスケが見せた表情は意地悪な少年の笑みだった。
「そういうのは要らない」
そんなやり取りをしているだけだったのに、不思議と恐怖心が和らいでいた。
ちりんちりん。
鈴の音が鳴り響く。
お前の現実はこっちだと、嘲笑うように。
──。
「可哀想なアキラ」
アキラが寝ている傍らで、コウスケは赤の鈴を鳴らして微笑んでいた。その目は暖かくも冷たくて、複雑な心境を照らす鏡のようだった。
眠りについてしまえば、アキラは悪夢に苛まれ、眉間に皺を寄せる。彼はユメの世界で勝つまでは、うなされたまま目覚めることはない。
「はぁ……アキラはいいよな。この村に馴染む前に遠くへ飛べて。
──けど、お前からこっちに落ちてきてしまったら手放せない」
そう言いながら再度ちりんちりん、と鈴を揺らす。鈴はユメとの繋がりを保つ。アキラにはユメを見てもらわなければならない。
「あれ──栄養剤と呼んでる薬の副作用がないから、鈴の音がなきゃユメを見られないのも可哀想だけどな」
コウスケたちには、現実か夢か迷う間も与えられない。
生きているすべての時間が現実で、すべての時間にユメを見る。
「ユイと儀式を行って倒れるのは予想外だったが、おかげでアキラは順調だな」
布団を捲り、眠っている彼の寝巻きのボタンを外すと両手右足は赤いミミズ脹れのように模様が浮かんでいる。
「あとは……タクヤか」
コウスケは目を閉じた。
──ずっと一緒にいような、アキラ。
──。
負けて悔しいコウスケは大の字になって寝っ転がる。
「勝てねぇ!」
「普段ゲームをしない、と言ってる割に強いんだよな……」
俺はふと、思い当たったことをコウスケに尋ねた。それは、あまりにも脈絡がない。
「コウスケ……これは現実なのか?」
「哲学みたいだなぁ。なぜ、疑問を持った?」
コウスケのその黒い瞳は俺の考えを見透かそうと真っ直ぐ見つめてくる。
「む、村に帰ってきてから生々しい夢を見るんだ……。
コウスケを手にかけたり、いや、コウスケだけじゃないんだ。ユイ姉もリンも。まるで手から零れていく砂のように、夢の中で命を散らしていく」
コウスケは黙って話を聞いている。
「眠るのが怖い」
俺はポケットの中から赤い鈴を取り出した。
ちりん、と静かに鳴る赤い鈴は、今や光沢を失って、元々付属していた紐は解れてき始めて、輪となっている部分はちぎれている。
コウスケもどこからか青い鈴を取り出した。これは、俺が村を出る数日前──神社へ遊びに行ったら神主であるアケミさんから手渡された鈴だった。村を出ていった俺の、村との、みんなとの繋がりを感じる唯一の品。
「あまりにも現実が平和で……理想的すぎて、実はこっちが夢なんじゃないかって」
目の前で寝そべっていたコウスケは急に起き上がると、俺の傍に寄ってきた。すると、俺の髪をくしゃと触って乱す。
「なっ……」
「アキラ。これは、現実だよ」
ゆっくり触られる感覚は心地よいものだった。
──これは、現実。
感覚があることだけが現実とは限らない。しかし、コウスケが発する言葉は、夢か現実か分からなくなったなら、心地の良い方を現実だと思い込めば良いという暗示に近いものだった。
「そっか、これが現実なんだな──」
「これでもまだ怖いなら、夜は一緒の布団で寝るか?」
その言葉を述べているコウスケが見せた表情は意地悪な少年の笑みだった。
「そういうのは要らない」
そんなやり取りをしているだけだったのに、不思議と恐怖心が和らいでいた。
ちりんちりん。
鈴の音が鳴り響く。
お前の現実はこっちだと、嘲笑うように。
──。
「可哀想なアキラ」
アキラが寝ている傍らで、コウスケは赤の鈴を鳴らして微笑んでいた。その目は暖かくも冷たくて、複雑な心境を照らす鏡のようだった。
眠りについてしまえば、アキラは悪夢に苛まれ、眉間に皺を寄せる。彼はユメの世界で勝つまでは、うなされたまま目覚めることはない。
「はぁ……アキラはいいよな。この村に馴染む前に遠くへ飛べて。
──けど、お前からこっちに落ちてきてしまったら手放せない」
そう言いながら再度ちりんちりん、と鈴を揺らす。鈴はユメとの繋がりを保つ。アキラにはユメを見てもらわなければならない。
「あれ──栄養剤と呼んでる薬の副作用がないから、鈴の音がなきゃユメを見られないのも可哀想だけどな」
コウスケたちには、現実か夢か迷う間も与えられない。
生きているすべての時間が現実で、すべての時間にユメを見る。
「ユイと儀式を行って倒れるのは予想外だったが、おかげでアキラは順調だな」
布団を捲り、眠っている彼の寝巻きのボタンを外すと両手右足は赤いミミズ脹れのように模様が浮かんでいる。
「あとは……タクヤか」
コウスケは目を閉じた。
──ずっと一緒にいような、アキラ。
──。
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