入厨 ‐いりくりや‐

天野 帝釈

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くたばり損ない

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薄情なもんだなぁ。

散々ガキの頃はお乳をもらって育ててもらったろうに。

捨てる餞別がこの干からびた古ぃ米かぁと盗人は途端に老婆が哀れになって、
ふしふしと苦しそうに息をする老婆に首を向けて眺めた。口が動いているのを見ると、何か言っているらしい。

「ふぅぃず・・・。ふぅいず・・・。」

老婆は喉をヒューヒューと鳴らしながら必死にこちらに何か訴えている。

もしかすると数日飲まず食わずでいたせいで、水を欲しがっているのかもしれねぇ。

先程米を漬けるために水瓶の中の水を半分程使っちまったが、くたばり損ないの最期の願い位聞いてやろうと、
椀に水を汲み、古い匙にちょんちょんと水をつけて、口目掛けて一滴一滴垂らしてやった。

老婆は何とか飲み込んでいるらしい。数滴たらした後に口を閉じると喉をぐっと動かしている。


老婆が満足したのかくぅくぅと寝始めたので、男はやっと米のことを思い出した。
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