魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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百年花(5)

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『探索蝶ですね』

 モグモグしている食人蔦の口に釘付けになっていた私の頭に、食人蔦たちとは違うテレパシーが届く。シナレフィーさんが発したもののようだった。
 シナレフィーさんに目を向ける。

『一部の人間が使役する、失せ物探し用に飼育された魔物です。情報が伝達されたなら色が赤く変わるので、妨害は間に合ったようですね。妃殿下を探しているのなら、依頼主は恐らく勇者でしょう』
「カシムが?」
『妃殿下の契約は陛下が強制的に外しましたが、向こうは縛られたままです。勇者は、貴女を殺して次の嫁を用意しようと考えるはずです』
「結局、命は狙われるわけですね……」

 カシムが『勇者の嫁』に拘るのは、やはり森にあった剣を抜くためだろう。
 ギルはあの剣のことを『竜殺しの剣ドラゴンスレイヤー』と呼んでいた。ギルもシナレフィーさんも、その竜だ。これほど不穏な名称もない。

(そもそも何で森に放置してあるんだろう?)

 あれでは勇者に持って行って下さいと言わんばかりだ。こちらで回収出来ないものなんだろうか。――うん。今度、ギルに相談してみよう。

「食人蔦さんたち、守ってくれてありがとう!」
『あいよー』

 ワシャワシャ

『リリ。大きめの帽子を妃殿下に渡して下さい』
「はいですっ」

 シナレフィーさんの指示に、リリが亜空間から帽子を取り出す。
 おお。これが大きさも重量も無視してアイテムを持ち歩ける、カラクリなわけですな。
 ポーションを九十九個なら鞄に入らないこともないかもだけど、RPGは大量の武具に、場合によっては丸太なんかも持ち歩いちゃうからね。ここでの『鞄』は、亜空間に繋がっている入口を意味するに違いない。

「どうぞ、サラ様」

 ぽすっ
 リリが私に帽子を被せてくれる。

『勇者が探しているなら、妃殿下の髪の色は目立ちます。それで隠していて下さい』
「わかりました」

 リリからヘアピンも受け取り、帽子を固定する。

「それじゃあ、サラさん。行きましょうか」

 準備万端となったところで、頭上から声が掛かった。ミアさんは、いつの間にか既にシナレフィーさんに乗っていた。
 リリが、シナレフィーさんの爪、手の甲、腕、そして胴体と、慣れた足取りで登っていく。

「よいしょっ……と」

 それを真似て、何とか私も竜の背によじ登った。
 前からミアさん、私、リリの順で座る。
 うう、既に高い。地上が遠い。これは見ては駄目だ、頭がグラグラしてくる。
 多分、結界魔法か何かで上空の気温や風圧をカバーしてくれるのだろうけど、目がくらんでずり落ちた場合ってどうなんだろう。
 ……か、考えないでおこう。
 バサッ
 竜が巨大な翼を広げる。

『では行きますよ』

 そして彼の言葉とともに、竜の巨体は身を固くした私に容赦なく、高速で飛び立った。
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