魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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イスカ(2)

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(さて、と……)

 ミアさんと辞典制作に勤しんだ翌朝。私は小型魔物三体とともに、静まり返ったイスカの村のとある邸へと潜入していた。
 とある邸とは、私が『勇者の花嫁』として喚ばれた、あの建物だ。
 村といえどそう狭くもない規模のイスカだったので、最初はすぐに目的の建物を見つけられるか心配だった。が、それはすぐに杞憂に終わった。
 当時は気付かなかったが、建ち並ぶのは、こぢんまりとした木造民家ばかり。私の記憶にある石造りの建物は、小さな聖堂と一軒の邸しかなかった。これでは間違えようがない。
 念のため聖堂の出入口も見てみたが、明らかに記憶にあるものと異なる。というわけで、建物の特定は早々に完了したのだった。

(本当、人っ子一人いないなぁ)

 私の手には、農業の翻訳本二冊と、日常生活の用語を扱ったものが一冊。重いわけではないがそれなりの重みのある本たちを、私は抱え直して廊下を進んだ。
 この邸への侵入地点は、何と堂々正面玄関。ここの住人もだが、周辺の家の住人も皆出払っている。
 それは何故か。答は村に一大事が起こったからである。――古代竜エンシェントドラゴンが村の上空を旋回しているという一大事が。

(この建物は集会場みたいな場所なのかな?)

 学校の教室のように廊下から窓を通して中が見える部屋を眺めながら、歩く。この辺りに並ぶのは、そんな部屋ばかりのようだった。

(ということは、私が服を着替えさせられたのはこの辺じゃないってことね)

 私が花嫁衣装(という名の死に装束)に着替えさせられた部屋は、廊下側には窓が無かった。反対側にはカーテンが降ろされていたので、そちらには窓はあったかもしれない。

(あ、ここから部屋に窓が無い。ってことは……)

 角を曲がると急に暗い廊下に出て、驚いた。けれどその理由を知って、気分が上がる。
 目的地は近い。そう私は確信した。
 部屋の扉は開かないので、廊下の端を歩いてできる限りミニマップの解放範囲を広げる。フィールドマップの端っこを舐めるように歩き回る、あのイメージで。マップ表示率百パーセントを目指すときの基本です。

(あ、隠し通路発見)

 そして遂に、私は地下へと続く階段を探り当てた。
 カコンという軽い音とともに石造りの壁が回転。壁の向こう側に出る。その仕掛けは普通に見ただけではわからないものだった。
 私が気付いたのは、マップ上で『この壁の向こうに通路がある』ことが見えたためだ。そうでもなければ、単なる壁を念入りに調べようなんて思わない。
 私がギルから離れて潜入組になることに彼は渋い顔をしたけれど、ここは華麗にオーブを手に入れて、参加させて正解だったと思わせたい。
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