魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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人工精霊(5)

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 沈黙が続いて暫く、唯一の音だった足音も止まる。
 森の開けた場所に出た。中心には、円形の石畳とあの剣が刺さっていた石碑。
 ここが目的地、だからもう前を向けとは咎められなかったと思う。けれど、私は結局彼を振り返ることはしなかった。
 代わりに、今はもう剣の刺さっていない石碑を見つめる。
 カシムに殺されるために連れて来られたこの地で、今度は彼に逃げろと言われているのだから、不思議な巡り合わせだ。

「俺がジラフに、あるだけの知識を、技術を吐き出させる」

 石碑の前まで進み出た、カシムの姿が視界に入る。その場で片膝をついた彼のその声は、今度は強い意志を感じるものだった。

「誰もに、「世界が変わった」と言わせてみせる。俺にそれを成し遂げさせたエリスという存在を、誰もが知り、忘れないほどに。それが――せめてもの俺の償いだ」

 小さな白い花を咲かせた野草が、カシムの手で石碑の側に添えられる。それから彼は立ち上がり、背負っていた大剣を石碑へと突き立てた。
 静かな森、祀られた竜殺しの剣、勇者カシム……まるで、あの日の再来のようだ。

(再来だというのなら)

 私は、空を見上げた。抜けるような青い空。
 限界まで、大きく息を吸う。
 吸って――

「助けて! ギル!!!」

 ありったけの大声で、私は叫んだ。


 ――――ザワザワ


 葉擦れの音がする。
 それはここへ来るまでも、時々聞こえていた音で。

「……え?」

 違ったのは、今はまったく風が吹いていないこと。
 ザワザワ
 ザワザワ
 吹いていないはずの風に、木々が揺れる。
 ――いや、そうじゃない。
 森の木という木を、

「!?」

 気付けば、私の身体は発光していた。まさかと思い、地面を見る。

「あ……」

 私の足元を中心として広がる魔法陣。それは、見覚えのある淡い光を放っていた。
 魔法陣の光が、徐々に輝きを増していく。
 地面に立っているはずが、浮いているような、あるいは水面に立っているような奇妙な感覚。

「相変わらず、派手な出迎え方だ」

 呆れが交じった口調で言ったカシムを見るも、光の向こうに彼の姿はかすんでいて。
 けれどどうしてか私には、見えない彼の表情が初めて笑みを浮かべているように思えた。

「カシム、ありがとう!」

 既に輪郭がぼやけた彼に、早口で伝える。
 カシムとは色々あった。あったけれど、引っくるめて言うならこれしかない。この世界での出来事を、ギルと出会い彼と在るという結末に集約したのなら。
 さらに光が増していく。
 カシムは、もはや輪郭さえ見えない。

「そいつに感謝することだな」

 そしてカシムの謎の言葉を最後に、私の視界は白一色に染まった。
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