『悪役令嬢』は始めません!

月親

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『秘密の恋人』が終わるとき(4)

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 件の小休憩ですっかり気を取り直した私は、ご当地グルメツアー後半戦も元気に過ごした。
 私がチョロいという可能性は否めないが、それ以上にきっとレンさんの私の扱いが上手い。
 私が実演販売に立ち止まろうが売り子さんにホイホイされようが、予定していたご当地グルメ全店制覇を華麗に達成。急かされた記憶など一切ないのに、レンさんは時を操る神か何かか……。

「当日にお土産を持って帰りたいかと思って、ギルドの馬車を呼んでおいたよ」

 そこに来て、帰り道までこの気遣い。惚れる。惚れてるけど、惚れる。

「ありがとうございます!」
「どういたしまして」

 商店街を出てすぐの場所に、レンさんが手配したという馬車は止まっていた。
 周りを見ればやはり馬車が列をなしていて、その側には『貸し馬車』の看板がある店が。巧くできている。
 レンさんが先に馬車のステップに上がり、手荷物をすべて積んでくれた。それから私に手を差し出してくれる。惚れてるけど、惚れて、惚れる。
 私はドキドキしながら彼に手を預け、馬車の中へと入った。
 前方の座席ほとんどを占めた、私のお土産が目に入る。後方座席に奥側に、レンさんが座った。
 いつも乗るノイン家の馬車とは違って、座席にふかふかのクッションは置いていない。今は閉めていないカーテンもシンプルなデザインだ。仕事の移動用という感じがする。
 レンさんが仕事に行くとき、これに乗って行くんだ……。

「シア。僕の横と膝の上、どっちに乗りたい?」
「えっ!?」

 妄想に入りかけたところ、私は耳を疑う問いに一瞬にして正気に戻された。
 隣り一択かと思えば、まさかの二択。しかも、レンさんの膝の上!?
 これは選んでいいものなの? どうなの?

「ひ、膝の上で……」

 悩んだ末、欲望に忠実になってみた。
 そんな私を「お望みのままに」と、レンさんが本当にひょいと膝の上に乗せてくれる。そして彼の手は、そのまま私のお腹に回された。
 失念していた。膝の上に着席となれば、必然的に抱き抱えられるということを……!
 近い。温かい。柔らかい。良い匂い。あと私の心臓がうるさい。
 待って。意識が飛びそう!

「……僕から誘っておいて、照れるんだけど」

 照れてるの!? レンさんが!?
 その表情が見たい。けど、近すぎて見えない。何て贅沢。
 あああ……多分、言葉通りレンさんが照れただけなんだろうけれど、その台詞とともにフッと吐いた息が……息が……!
 待って。魂が飛びそう!

「ところで、昨日シグラン公爵令息はどんな位置で乗ったのかな?」
「んんっ?」
「馬車が壊れて立ち往生していた彼を、シアがノイン家の馬車に同乗させたって聞いたんだけど?」

 あまりにも意外な話題を出され、飛びかけたあれこれが驚きでこの場に留まる。
 逆に馬車はゆっくりと動き出し、その振動が来た。

「彼が出歩くと、あっという間に目撃情報が拡散されるから。ギルドまで、一番通りで起きた『事件』の一報が入ってきたんだよね」
「事件……」

 シグラン公爵令息は、女性の馬車に乗るだけで事件として取り扱われるのか。そこまでもてるというのも大変そうだ……。
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