元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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婚約期

馬車旅の終わり

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吟遊詩人と別れ、予定通り4日目に泊まる予定の町へと辿り着いた。
小さい町だが穏やかで清潔な町並みだった。
予定していたより早い時間に到着したのでまだ日が明るく、町の中心部には綺麗な様々な花の花壇が並んおり、マリィアンナの目を楽しませた。

道すがら、たくましい体格の男性と仲睦ましく話している女性が目に入った。
頬を赤く染めた女性は、つま先立ちで背伸びをしてハンカチで男性の頬をぬぐっていた。
男性はニヤニヤと頬を緩ませて女性のされるがままになっている。
その光景は、マリィアンナの心に波風をたてた。


なんでしょう…この気持ち。
平民の方はこんな町中で男女が2人きりでいるものなのね。
貴族の方であれば考えられませんわ…。
でも…なんだか…うれしそうで楽しそう…。


馬車が男女の前を通りすぎた後もマリィアンナは目を離せずにしばらく見つめていた。


わたくしもあんな自由が欲しかったのかしら…
それとも、今後が不安だからこんな気持ちになるのかしら…


「大丈夫かい?」
「え?」
父が、マリィアンナへ心配そうに尋ねた。

「マリィはこんな長旅初めてだろう?疲れたか?」
「…いえ、大丈夫ですわ、お父様。この町の殿方はたくましい体格の殿方が多くて驚いていましたの。あの方々は騎士ですの?」
「いや、木こりだな」
「木こり…」
「材木を切ることを生業なりわいにしている者達だ。毎日木を持ち運ぶからあの体躯たいくなのだろう」

小道の材木置き場に木を運び入れる木こり達が見えた。
仕事を終えた木こり達は肩を組み、その隣の酒場へと吸い込まれていった。
「にぎやかな町ですのね…」
その光景を眺めながらマリィアンナはぼんやりと呟いた。

宿に着き、部屋へと入りマリィアンナはベッドに座り、フゥッとため息をついた。
世話役のメイドに頼み、父に伝言を頼んだ。

しばらくするとノックがあり入室の許可を出すとメイドが入ってきた。
「旦那様から許可が出ました」
「そう、じゃあよろしくね」

マリィアンナは軽装のドレスに着替えて宿の外へ出た。


「お父様に許可していただけるなんて思わなかったわ」
マリィアンナはポツリとつぶやいた。

未婚の伯爵令嬢が町へ出歩くことは滅多にない。
箱庭のような邸宅で生活するのが当たり前だったのだ。町を歩くことに父が許可を出したことはマリィアンナには予想外だった。
ダメ元で言ってみるものだと思わず口元が緩んだ。


マリィアンナの後をメイド1人と2人の騎士が付いて行く。
綺麗な花壇を眺めたり、小さな古い教会を外から眺めたりと日がまだ陰ってなかった為、ゆっくり町を探索することがきた。

急ぎ足で家路へと帰っていく人々
肩を抱き合い酒場で一日を労うにぎやかな声
お使いを終え、小さな手でをを握りしめ駆けて行く子供
名残惜しそうに手を重ねる若い男女

どれも不幸なんて欠片もない平和な光景。

じんわりとマリィアンナの心へと染みていく。


こんな世界知らなかったわ…
 

ふと通りにある少しさびれた雑貨屋へ気まぐれに入ると、1つの木工品が目に入った。
手にすっぽり収まるサイズで、今まで見た木製品とは違いってつるつるして触り心地がよかった。
白鳥が瞳を閉じて今にも羽を広げ、飛び立とうとしているところだった。

今にも寝てしまいそうにコクリコクリと舟をこいでいる店主へ声をかけた。
「店主、この作品は…」
「はっ…はい!いらっしゃいませ。えーっと、あー、こちらはダグレスの作ったヤツですね!」
「ダグレス?」
「えぇ、木こりだったんですけどねぇ。運悪く倒れた丸太で足をヤッちまって。随分前に木こりはやめてこういうのを作ってんですよ」
「そう…これいただくわ」

そういうとメイドに目配せをした。メイドはうなずいて銀貨を1枚店主へ手渡した。
「ひぇ!こんなに!」
店主が驚くと、マリィアンナはメイドが持つ袋からもう1枚銀貨を摘んで店主へ渡した。
「この銀貨はそのダグレスとやらに渡しなさい。いいですね?」
「は…はい!必ず!」
店主は目を見開いて背筋を伸ばして言った。


店を出て宿へと戻り、メイドを早々に下がらせマリィアンナため息をついた。
小さな1人用テーブルにハンカチを広げ、その上に白鳥の置物を置いて椅子へと座った。
白鳥の頭をなでてテーブルに頬杖をつき、フッ笑った。

「…この白鳥はわたくしですわ。今、新たな世界へ旅立つわたくし」
ツンと白鳥をつつきマリィアンナは瞳を閉じた。


この町は幸せがつまっていますのね。
アルベルト様とこれから守っていく町のひとつ…

「わたくしも…幸せになれるかしら…」
ポツリと漏れたマリィアンナの不安は誰にも聞かれず消えた。
ただそこには白鳥だけが黙って佇んでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日は朝から雨が降っていた。

今日にはドランジェ伯爵邸の近くの街に到着できるようだ。


お父様との馬車の旅ももう終わりね…。


マリィアンナは寂し気に父を眺めた。
しかし、箱入り娘な伯爵令嬢の体は慣れない馬車旅で疲れており、すぐに寝息をたてた。

クステルタ伯爵はそんな娘を強面な顔では想像できないほどやさしい眼差しを向けた。


今まで19年、長いようで短かったな。
可愛いマリィは私達夫婦の宝物だった。
かわいいかわいいマリィアンナ。君は僕たちの娘に生まれてよかったか?
私は君が僕の娘に生まれて神に何度も感謝をしたよ。
君は本当に素敵な娘だった。
親しくなった令嬢へのプレゼントに悩んで熱を出したこともあったな
領地勉強について悩んでいたマリィを
メリアンとどう接すればいいか困り果てたのも今ではいい思い出だ。
努力家で優しくて、人を観察し柔軟な考えももっているマリィは私の真の後継者として十分だった。
できることなら私の手元で幸せになる様をみたかった。
しかし、これからはアルベルトという領主を支える妻として…
幸せになってほしいものだ…。
願わくばメリアン、マリィのことを天から見守ってくれ…

しとしと降るやさしい雨の中、2人は馬車がガタン!と大きく揺らすまで夢の世界に旅だった。
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