元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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新婚期

メイドに小さな反撃

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夜に、また『お嬢様』呼びをしたメイドが乱雑にノックして許可も得ず入ってきた。
「お食事をお持ちしました」
「そう…」

窓際に立っていたマリィアンナは振り返らなかった。


…このメイドはダメね。
さて…どうしましょうか…


メイドは食事を並べて、すぐ部屋を退出して行った。


真正面から相手をするか、力ずくで従えるか考えながら冷えた夕食を胃袋へと収めていった。


でもわたくしのを考えると…
もう少し様子を見る方が良いかしら…


食事をまだ終えてないのにドアをノックする音があり、許可もないのにズカズカと部屋へメイドが入ってきた。
ニヤニヤしながら
「お下げいたします」
というや否や、素早く皿に手をかける。

「…」

マリィアンナは手を止めて口を拭いて、ため息を軽く吐いて窓辺へと移動した。

メイドは無言で皿をカートにのせてそのまま出て行った。


相手するのも疲れるわ。所作ができてないだけでこんなに不快に思うなんて。
…プリマは何をしてるのかしら…統括はしてるけど『教育』はしてないのかしら。


その夜もアルベルトはマリィアンナの部屋へは来なかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日もいつも通り、マリィアンナが希望したわけでもないのに自室へと朝食が運ばれてきた。

メイドのトルノがバタバタと入室してきて朝食を並べ、出ていく。


終始マリィアンナは無言で、運ばれてもドアの方へ向いてメイドを見ることもなかった。
トルノは、不思議そうな顔をしながらも料理を並べて出て行った。


マリィアンナは、昨日からずっとモヤモヤしているのがスッキリせずにいた。
今まで伯爵令嬢としてこんな気持ちになることは今までなかった。
気になった事があったら使用人に訳を話してすぐに解決していたので、こんなにモヤモヤすることがなかった為にイライラし始めていた。

お礼状の続きを書き始めるが、イライラしてほとんど進まなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼になり、ノックが乱雑にされる。ノックの音でマリィアンナはため息をついた。


あのメイドね…


「お食事お持ちいたしました」
「…」
机に座ったまま、マリィアンナは返事をしなかった。
『お嬢様』呼びしたメイドは皿をカチャカチャと並べながら
「昨日はアルベルト様がいらっしゃらなかったのですね。」
ニヤニヤと笑いながら言った。

「…」
マリィアンナが無言でいると、さらに
「アルベルト様はお忙しいですから」
「…」


食事を並べて早々に出て行ったので、冷めた食事を前にマリィアンナの怒りはさらに増した。


アルベルト様がこの部屋へ来ていないのはメイド達に筒抜けのようね。
それにしても『忙しい』…ね。


もくもくと食事を口へ運び、今日もまた食べ終わる前に下げられる。
メイドが部屋を出て行こうとしたその時

「どう、忙しいの?」
とマリィアンナは冷たい声をあげた。

「え?」

マリィアンナはスっと優雅に立ち、メイドの目の前へ行って
「だから、アルベルト様はどう忙しいの?」
と淑女らしく微笑んだ。

「え、えっと、それは…」
とっさの事だった為、メイドは言葉が出てこなかった。

「貴方はアルベルト様の行動をいちいち把握しているの?忙しいって知ってるのですものね。管理職ならまだしも…ただのメイドが行動を把握してるなんて…驚きだわ」
「…」

メイドは下を向いてスカートをギュッと握っている。
「まるでアルベルト様を監視してるみたい。嫉妬深い愛人のようね」
マリィアンナは右手を頬にあて、クスクスと笑った。

「…っ!」
メイドは悔しそうに顔をゆがめた。

マリィアンナは目を細めてメイドを見つめた。
「もう下がっていいわ」
そしてスッと踵を返して机へと向かった。

メイドは乱暴にドアを閉めて、ガチャガチャとカートに乗せた皿の音を立てながら廊下を進んでいった。


我慢できなかったわ。淑女としてはダメね。


苦笑しながらも、マリィアンナは後悔はしていなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
言い負かして多少スッキリしたところで、お礼状を書き始めた。
イライラしっぱなしの朝に比べるとだいぶ作業は進んだ。

アルベルト側の親戚を全部書き終え、マリィアンナ側の親戚の名簿をとりだそうと引き出しを引いた時、机の右端に置いてあるアクセサリーボックスが目に入った。
伯爵令嬢として恥ずかしくない程には宝石を持っているが、その中でもお気に入りはすぐに眺められるように机の小さめなアクセサリーボックスへ綺麗に並べて入れてあったのだ。


マリィアンナは気分転換に宝石でも眺めようと、手に取って開けてみるが…なぜか違和感を感じた。


いつものアクセサリーには変わりないけど、なんだか…
変な感じが…する。


箱から、一つ一つ出して確認をしてみる。

お母様に10歳の時にもらった小さいピンクサファイアの指輪
お父様に19歳のお誕生日にいただいたシトリンのネックレス
叔父様と叔母様から成人祝いにもらったエメラルドのブローチ
アンゼルからもらったルビーのイヤリング
サッシャとミーシャからもらったルビーをあしらったチョーカー

それと…
アルベルト様と一緒につけた金の誓いのブレスレット


ブレスレットを腕に着けて腕を上に掲げてみる。
ブレスレットはキラッと光った。


シンプルなデザインだけど…金色で綺麗。
結婚式ではお父様が用意した黄緑の髪飾りも素敵だったわ。ネックレスも…


ハッとして、マリィアンナは椅子から勢いよく立ち上がって、目を見開いた。


アルベルト様に頂いたネックレスがない!


手を口元へ持っていき、思わず息を飲んだ。
手を震わせ、マリィアンナは動揺していた。


あのネックレス、変わった技術が使われててデザインも気に入ってたのに!


お気に入り以外の宝石が入っている鏡台の引き出しを引き抜いて、ソファーテーブルで1つ1つ宝石を出して確認するが…やはりない。


ない…ない…ない…なんでないの!


マリィアンナはフラフラと机に両手をついてうなだれた。
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