元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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結婚 中間期

アルベルトの告白と懇願 

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マリィアンナはなかなかアルベルトの言葉が理解できなかった。
断片的に言葉だけが頭に入ってくる。


義父 持病 亡くなる


「え?」
私は何を聞いたんだろう?とアルベルトの顔を眺めると…


アルベルトは整った顔をゆがめて苦しそうだった。

「マリィに言うか迷ったんだが、聞いてほしい」

アルベルトはマリィアンナの手をギュッと握った。
マリィアンナは視線を握られた手に移した。


アルベルト様の手…震えてる。
それにつらい顔をしてらっしゃる…


そんなアルベルトを見て、マリィアンナは平静をようやく取り戻した。
そんなマリィアンナの目を見つめ、アルベルトは続けた。

「父上は…生まれつき持病を持ってお生まれになった。この事実は…お爺様しか知らない。医者が言うには成人あたりまでは生きれるだろうが…子供を作れるかは確率が低かったらしい。それでも父上は母上と出会い、私という後継者を作れた。幸運にも持病の発作は今まで1度しか…出なかったそうだ。しかし…次に発作が起きたら…助からない…そうだ…」

苦しそうに言うアルベルトに、マリィアンナの胸は締め付けられた。


「私は…10歳の時に知った。幼いころ、領地勉強があまりに辛く厳しいのはなぜかと疑問に思っていたんだ。なぜ物心がついた頃には勉強をしていたのかと。その疑問がやっとわかったとスッキリしたのと同時に…恐怖を感じた。
いつ父上が亡くなってしまうのか、父上亡き後この領地を一人で背負う重圧をどう受けとめればいいか…と。
悩みながらも…逃げる事もできず、私はほんの数年の王宮勤めをこなして早々に領地へ戻り、父上から仕事を引き継ぐ準備をし始めた。
だが、思ってた以上に仕事をこなすのは大変だった。仕事の為だけ、それだけの為に生活した。
婚約者がいないと面白おかしく噂をされるのが面倒だと…当たり障りのない女性との時間を無理に作った。
楽しいことなどなく、ただひたすら書類仕事や父上の代わりに領地を飛びまわる日々。
そんな時…父上が夜会でマリィを見つけ婚約者にした。私はその時、君を…領地を守るパートナーとして…同志として受け入れた。
愛なんて不確かなものだと思っていた。そんな気持ちを持つだけ無駄だと…邪魔だと思っていた。でも…マリィと共に過ごして…今は…マリィを愛してるんだ…」

アルベルトは眉を下げ、マリィアンナをすがるように見つめた。


「マリィが私のそばにいてくれるだけでいい。それだけで私はどんなに膨大な仕事でもがんばれる。君が私の心の安らぎになってくれないか?
そして私を…愛してくれ…君に…愛されたいんだ…!」

アルベルトの愛の懇願にマリィアンナは胸を高鳴らせた。
心臓がバクバクと激しく動く。


私は…私は…私も…




貴方が好き。


結婚したばかりの時は伯爵領を支えることしか頭になかった。
だけど…今は違う。
私をプティの暴力から身を挺して守ってくれた。
私を信頼して味方になってくれた。
私に花を送り、心を砕いてくれた。
そして…私を愛していると言ってくれた。

私は貴方のそばにずっといたい。



「私も貴方のそばで…生きていきたいわ。…お慕いしています」
頬を真っ赤にしてアルベルトの胸にポスリと顔をうずめた。


アルベルトは、驚いた顔をして震えた手でぎゅうっとマリィアンナの体を抱きしめた。


「ありがとう…ありがとう!ありがとう…」
アルベルトは何度も言った。アルベルトの顔は今にも泣きそうな顔だった。
そして幸せをかみしめたままマリィアンナを抱きしめ続けた。


帰りの馬車でも2人は会話を弾ませた。
大公園で時々見かける絵師が今日はいなかったとか他愛もない会話をしていたが、アルベルトは馬車の振動に耐えきれず、次第にコクリコクリと舟を漕いでいた。
そんなアルベルトを横目で見ながらマリィアンナは思わず「可愛い」と呟きながら微笑んだ。


そして、マリィアンナは決心した。
自分に『できること』をしよう!と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
邸宅に戻ったアルベルトは、マリィアンナの助言を受け入れ、夕食までひと眠りすることにした。

部屋へと向かって行ったアルベルトの後ろ姿を見ていると、ドランジェ伯爵が声をかけてきた。

そして誘われるまま、サロンへと向かった。

メイドが紅茶を入れると、ドランジェ伯爵は手をふってメイドの退出を促した。
義父と義娘はサロンで2人きりになった。

「今日は楽しかったかい?」
「ええ、久しぶりにアルベルト様と2人きりでしたので」
にっこり笑いながらマリィアンナは答えた。

「それはよかった。今日の為に仕事を前倒しにしたアルベルトも報われたな」
微笑みながら、ドランジェ伯爵は言った。

マリィアンナは、アルベルトがわざわざ自分との時間を作ってくれた事が
無性にうれしくなり、こそばゆく感じた。

和やかな雰囲気の中、ドランジェ伯爵は
「アルベルトから聞いたかい?」
と、マリィアンナに尋ねた。

マリィアンナは紅茶のカップをとろうとする手が一瞬止まった。

「はい…お聞きしましたわ」
マリィアンナは平静を保ったまま答えた。

「これからも普段通りに接してくれるとうれしいな」
そう、ドランジェ伯爵が困り顔で言うと、マリィアンナは微笑んで

「はい。お義父様。これからも末永くよろしくお願いしますわ」
と、言った。

ドランジェ伯爵はキョトンとした顔をしてからフッと笑った。

「がんばって長生きするよ。ふふ!はははっ!」
と、答えてうれしそうに紅茶を飲んだ。


『一日でも長く生きてくださいね』
『一日でも長く生きるよ』


出会ってまだ3カ月ほどの義父と義娘だが
2人の息はピッタリで、固い信頼関係が築かれていたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕食の時間になってもアルベルトは起きなかった。
ぐっすり寝ているアルベルトを起こすのは忍びなかったので、マリィアンナは無理に起こすことをせずに義父と2人で夕食をとることにした。


「お義父様、でしゃばりすぎとは思いますが少し…お忙しすぎはしませんか?」
「ん?」
ドランジェ伯爵は微笑みながら答えた。

「毎日お二方がお仕事でお忙しいのはわかっておりますが…社交シーズンなどどうしていらっしゃいますの?」

今は冬にさしかかり領地にいるが、社交シーズンの春の中頃には2人のどちらかは王都へと向かうのだろう。今の忙しさで社交などできるのだろうかとマリィアンナは疑問に思っていた。

「そうだね…社交はアルベルトはあまり…してなかったかな。必要最低限といったところだ。領地を2人で代わる代わるまわるのも一苦労だったが…仕方ないことだしね」
困った顔でチキンソテーを切りながらドランジェ伯爵は答えた。

「そうなんですの…。伯爵領は広大ですもの。管理と運営、経営は大変…ですものね…」

マリィアンナは頭の中で地図を浮かべた。
ドランジェ伯爵領は農地も広大だし、街・村の数も多い。領民の管理するだけでも一苦労だ。

「疫病などが流行らなければ…アルベルトと共になんとかできたしね」
にこりと笑いながら言うドランジェ伯爵をマリィアンナなんともいえない顔でみつめた。


不安を感じないよう気にしてくださっているのね。
でも…今のこの状況をなんとかしてさしあげたい。
アルベルト様を支えていきたいし…やさしいお義父様の事も少しでも力になってさしあげたい…
でも…私は何ができるかしら…


マリィアンナはそんな思いを抱きながらチキンソテーを口へと黙々と運んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マリィアンナは食事を終えて部屋へ戻ろうとしたが、アルベルトの顔をふと見たくなった。
部屋へ行くと、家令のグラウが部屋を出てくるところだった。


「グラウ、アルベルト様はまだ?」
「はい。若奥様。まだお休みに…」
「そう…」
残念そうにするマリィアンナを横目に、グラウは立ち去ろうとした。

そこへマリィアンナは
「サロンでお茶の相手をして頂戴」と誘った。
グラウは不思議そうな顔をしていたが
「今後について聞いておきたいことがあるの」
と言うと、素直に頷いた。


マリィアンナはサロンでグラウから様々な事を聞いて、驚いたり眉をしかめたりと忙しかった。

「そうなの…それは…」

マリィアンナは黙り込んでしまった為、グラウは所在なさげにメイドの入れたぬるくなった紅茶を飲んだ。



マリィアンナはしばらく考えこんだ後、ハッと気づき
「あ、もうわかったわ。行っていいわ。話を聞かせてくれてありがとう」
と、マリィアンナはグラウを開放した。


ソファーに深く座りなおして、マリィアンナは腕をそっと組んで考えこんだ。


私にできることを…まずは…一つずつ…


マリィアンナはぼんやりと今後について思考をまとめていった。
その日、サロンには夜遅くまで、明かりがこうこうと灯り続けた。
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