アーリマン

なるみつ

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新しい生活

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ソフィアは、こう見えて日本語が堪能だ。ソフィアには父親の違う兄がいる。
彼は日本人の父を持ち日本生まれの日本育ち、兄とのコミュニケーションは日本語で行われた。

組織、実質的には兄が用意した駅近くのタワーマンションの5階にソフィアは越して来た。
隣りの部屋には護衛役の清十郎が入居している。
何故5階かというと万が一の時に清十郎がソフィアを抱えて飛び降りても怪我を負わない高さだからだそうだ。

転入した、その日の晩これからの打ち合わせをしようとソフィアは清十郎を部屋に呼んで話をしようとしたが話にならなかった。
年頃の男の子が自分と目を合わすのを気恥ずかしく思う事はソフィアにも想像出来る、だが清十郎は徹底していた。
ソフィアとして相手を緊張させないようトレーナーにデニムパンツとおとなしい格好を選んだのだが、
「初対面で悪いのだけれど、わたしは貴方の事をまだ信頼出来無いの」
無言で頷くだけの清十郎
「兄さん、三巨頭の一人からの紹介だから腕は確かなのでしょうけど、この眼で確かめないとね」
ソフィアにはソフィアの使命があるのだ。

善は急げと昼間行った勝手知ったる学校へと向かう。
清十郎が木刀を持ち付いて行く。
夜に青少年が木刀を持ち歩いていれば、すれ違う人に奇異な眼で見られそうなものだがソフィアは其の手の目線を逸らさせる特技を持っている。
ソフィアにすれば簡単な事、少し気合いを入れれば周囲の視線はソフィアに注がれ直ぐ傍の木刀少年の存在など誰も気に留めない。
おとなしい格好をしていてもソフィアの美貌は健在だ。

学校へ着くとソフィアは人払いの術を施す。
原理主義者が大きな顔をしていた時代、バイブルに書かれていない知識を求めた人達の集まり、それがソフィアが所属する組織。
その知識の中には魔術的なものも含まれる。
グランドの真ん中で相対する二人
「さぁ、始めましょうか」
ソフィアは清十郎に向かって手を伸ばすと掌から圧縮した空気を飛ばした。
難無く躱す清十郎、それを二度三度と繰り返す。
「躱すだけでは、貴方の実力が分からないわ」
その瞬間、初めて清十郎がソフィアの目を見た。
「敵じゃないから、殺さないように」
小さく呟く
「鬼灯流奥義 陽炎」
清十郎の姿がゆらゆらとして的を絞り難くなる。
緩急をつけた足捌きで清十郎にとっては基本的な技だ。
的を絞らせないまま距離を詰める
「殺さないように、鬼灯流裏奥義 浮島」
ソフィアの足下に木刀を叩き込んだ。
衝撃でソフィアの身体が宙に浮き尻餅をついた。
ソフィアが起き上がろうとすると
「裏奥義 浮島」
また転ばされる。
元々畳を浮かせる技だが畳が無くてもお構い無しだった。
「殺さないように、浮島」
今迄、絶対に目を合わせようとしなかった清十郎がソフィアの目を見てる。
普段は、まともに言葉を発しない清十郎が簡潔ながらも、はっきりと声を発している。
完全に別人だ。
このままでは殺されるソフィアは恐怖した。
直接木刀を当てなければ命に別状ないと思っているのか、こんな衝撃を連続で当てられれば十分危険

「待って」
悲鳴に近い声だった。
振り上げた腕を止め、ゆっくりと木刀を降ろす。
「実力は十分にわかったわ、合格よ合格」

兄さんは護衛役として寄越したけど、護衛は本業じゃない絶対に
ソフィアが手を伸ばすと清十郎が手を取り立ち上がらせた。
ソフィアは少し強く手を握り
「これから、宜しく」
と声を掛けると、清十郎は目を逸らして頷いた。

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