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第二章~⑩
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しかし高岳さんがそれを止めた。
「やあ、勇気のある僕じゃないか。こっちへ来なさい。あとお母さんもどうぞ。といってここは私の部屋じゃないけど、いいよね」
後半は店長に向かって言ったが、当然のように彼は首を激しく縦に振っていた。その為利也達が二人に近づくと、傍にあった椅子に座るよう促された。
店長が立ったままだったので彼女は躊躇していたけれど、高岳さんの薦めに従って二人は腰かけた。
その様子を確認した後、彼は前に向き直り店長に対し口を開いた。
「さっきも言ったが、今回の騒ぎでここにいる彼女を首になんかしたら、ただじゃおかないからね。私は本当にこの店の本部を含めたチェーン店全てを、買い取ろうと思えばできるんだ。最低でも大株主になり、人事を操ってあんたの首を切ることくらい容易い。それは分かったよね」
「も、もちろんです。高岳様」
「だったらこの二人にもちゃんと謝りなさい」
「申し訳ありませんでした。今後は店長として、杁中さんをはじめとするパートさんや店員、息子さんを含めたお客様をお守りする為、先頭に立って問題に対処いたします。ですからお許しください」
「いえ、いえ、店長。頭を上げて下さい。そんな、困ります」
恐縮する彼女だったが、高岳さんが口を挟んだ。
「いいんだ。一番上に立つ者が、全ての責任を取るのは当たり前のことだよ。それをこの人は見て見ぬふりをし、ずっと陰に隠れていた。しかも騒ぐ子達を真っ先に注意したのは、店員ではなくこの子だ。確か利也君と言ったね。彼はここに勤める彼女の息子だが、客として来ていたんだよ。そのことを大人である店長はどう思うんだ」
「申し訳ありません。私が注意すべきでした」
「そうだろう。過去に同じようなことがあり、パートさんを首にしなければならなかった事情は分かった。それはもう一度あいつに連絡し、謝罪するよう伝えておく。当然、今後一切こういうことがないようしっかり釘も刺す。だからあんた達は毅然とした態度でいなさい。もちろん今回の件は、私の名前と連絡先を含め本部へ報告しておくように。現場ばかりが辛い目に遭っていちゃ駄目だから、そちらも指導しておかないとバランスが悪い。分かったね」
「分かりました」
「あ、有難うございます」
店長と彼女が揃って頭を下げたので、利也も遅れて礼をした。
「いや、利也君は頭を下げなくていい。今回は良いものを見せて貰った。君はお母さんが困っていると思い、上級生を含めた多くの騒ぐ子達に勇気を出して注意したんだよな。偉かったぞ。大人だってなかなかできることじゃない」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして、だ。お母さんも良い子に育てたよ。しかし、ね。あなたの対応は余り褒められない。それは分かっているかな」
「は、はい。申し訳ありません」
再び謝る彼女を見て、利也はカッとなった。
「お母さんを叱らないで」
だが彼は首を横に振った。
「叱っているんじゃない。ただもっと違う対応の仕方があった、と言っているだけだ。もちろん他の客に注意するよう言われ、でもそれができないと躊躇した気持ちは理解できる。だけど自分の息子が押し倒され、そこでようやく注意した。その勇気が最初からあれば、堂々と店長または近くにいるパートではない正社員の店員に、声をかけられたんじゃないのかな」
「おっしゃる通りです。息子の前で恥ずかしい真似をしました。私がもっと早くそうしていれば、利也があんな目に遭わず済んだと思います」
「そうだよね。もちろんそうさせない雰囲気を作ってきた、店長を始めとするその他の社員が一番悪い。それでも利也君の勇気をあなたも見習うべきだった。そんないい子に育てたあなたは、自分を誇っていいと思う。申し訳ないが、店長からプライベートな事情を少し聞いてしまった。ご主人を亡くされ、母子二人で暮らしているんだってね。まだ若いのに大変な苦労をしてきたんだろう」
急に優しくされたからか、彼女は涙ぐんでいた。それを見て彼は慌てた。
「ああ、他人が首を突っ込み過ぎた。申し訳ない」
「いえ。違います。温かい言葉を頂き、嬉しいです。有難うございます」
その後しばらく雑談をし、これから何かあった時の為にと名刺を店長と彼女に渡して彼は出ていった。利也達も店内に戻り、彼女と店長は仕事を再開し始めた。
菓子売り場にはまだ何人かいたけれど、騒ぎの時にいた子達は買い物を済ませ出ていったのだろう。知らない子達が煩くない程度に、和気あいあいと喋りながら選んでいた。
利也も目を付けていた菓子を手に取り籠に入れ、彼女が立っていたレジに並んだ。そこで目配せをして笑った後は、何事もなく家に帰ったのである。
彼女が仕事を終え、一緒に夕飯を食べている時は少し高岳さんの話をした。店長達といた奥の部屋ではお金持ちの人だったのかと思った程度だったが、再度名刺を見て二人で驚いた。
そこにはいくつもの会社を経営する社長、または会長だと書かれていたからだ。本当にすごい資産家で偉い人だと知り、だから店ごと買えるだの、県議の人さえも怒鳴りつけられたのだと納得した。
しかしそんな人とはもう会う機会などないだろう。そう思っていたが違った。あの事件から後、彼は何度も彼女が勤める店を訪れるようになったのだ。
「やあ、勇気のある僕じゃないか。こっちへ来なさい。あとお母さんもどうぞ。といってここは私の部屋じゃないけど、いいよね」
後半は店長に向かって言ったが、当然のように彼は首を激しく縦に振っていた。その為利也達が二人に近づくと、傍にあった椅子に座るよう促された。
店長が立ったままだったので彼女は躊躇していたけれど、高岳さんの薦めに従って二人は腰かけた。
その様子を確認した後、彼は前に向き直り店長に対し口を開いた。
「さっきも言ったが、今回の騒ぎでここにいる彼女を首になんかしたら、ただじゃおかないからね。私は本当にこの店の本部を含めたチェーン店全てを、買い取ろうと思えばできるんだ。最低でも大株主になり、人事を操ってあんたの首を切ることくらい容易い。それは分かったよね」
「も、もちろんです。高岳様」
「だったらこの二人にもちゃんと謝りなさい」
「申し訳ありませんでした。今後は店長として、杁中さんをはじめとするパートさんや店員、息子さんを含めたお客様をお守りする為、先頭に立って問題に対処いたします。ですからお許しください」
「いえ、いえ、店長。頭を上げて下さい。そんな、困ります」
恐縮する彼女だったが、高岳さんが口を挟んだ。
「いいんだ。一番上に立つ者が、全ての責任を取るのは当たり前のことだよ。それをこの人は見て見ぬふりをし、ずっと陰に隠れていた。しかも騒ぐ子達を真っ先に注意したのは、店員ではなくこの子だ。確か利也君と言ったね。彼はここに勤める彼女の息子だが、客として来ていたんだよ。そのことを大人である店長はどう思うんだ」
「申し訳ありません。私が注意すべきでした」
「そうだろう。過去に同じようなことがあり、パートさんを首にしなければならなかった事情は分かった。それはもう一度あいつに連絡し、謝罪するよう伝えておく。当然、今後一切こういうことがないようしっかり釘も刺す。だからあんた達は毅然とした態度でいなさい。もちろん今回の件は、私の名前と連絡先を含め本部へ報告しておくように。現場ばかりが辛い目に遭っていちゃ駄目だから、そちらも指導しておかないとバランスが悪い。分かったね」
「分かりました」
「あ、有難うございます」
店長と彼女が揃って頭を下げたので、利也も遅れて礼をした。
「いや、利也君は頭を下げなくていい。今回は良いものを見せて貰った。君はお母さんが困っていると思い、上級生を含めた多くの騒ぐ子達に勇気を出して注意したんだよな。偉かったぞ。大人だってなかなかできることじゃない」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして、だ。お母さんも良い子に育てたよ。しかし、ね。あなたの対応は余り褒められない。それは分かっているかな」
「は、はい。申し訳ありません」
再び謝る彼女を見て、利也はカッとなった。
「お母さんを叱らないで」
だが彼は首を横に振った。
「叱っているんじゃない。ただもっと違う対応の仕方があった、と言っているだけだ。もちろん他の客に注意するよう言われ、でもそれができないと躊躇した気持ちは理解できる。だけど自分の息子が押し倒され、そこでようやく注意した。その勇気が最初からあれば、堂々と店長または近くにいるパートではない正社員の店員に、声をかけられたんじゃないのかな」
「おっしゃる通りです。息子の前で恥ずかしい真似をしました。私がもっと早くそうしていれば、利也があんな目に遭わず済んだと思います」
「そうだよね。もちろんそうさせない雰囲気を作ってきた、店長を始めとするその他の社員が一番悪い。それでも利也君の勇気をあなたも見習うべきだった。そんないい子に育てたあなたは、自分を誇っていいと思う。申し訳ないが、店長からプライベートな事情を少し聞いてしまった。ご主人を亡くされ、母子二人で暮らしているんだってね。まだ若いのに大変な苦労をしてきたんだろう」
急に優しくされたからか、彼女は涙ぐんでいた。それを見て彼は慌てた。
「ああ、他人が首を突っ込み過ぎた。申し訳ない」
「いえ。違います。温かい言葉を頂き、嬉しいです。有難うございます」
その後しばらく雑談をし、これから何かあった時の為にと名刺を店長と彼女に渡して彼は出ていった。利也達も店内に戻り、彼女と店長は仕事を再開し始めた。
菓子売り場にはまだ何人かいたけれど、騒ぎの時にいた子達は買い物を済ませ出ていったのだろう。知らない子達が煩くない程度に、和気あいあいと喋りながら選んでいた。
利也も目を付けていた菓子を手に取り籠に入れ、彼女が立っていたレジに並んだ。そこで目配せをして笑った後は、何事もなく家に帰ったのである。
彼女が仕事を終え、一緒に夕飯を食べている時は少し高岳さんの話をした。店長達といた奥の部屋ではお金持ちの人だったのかと思った程度だったが、再度名刺を見て二人で驚いた。
そこにはいくつもの会社を経営する社長、または会長だと書かれていたからだ。本当にすごい資産家で偉い人だと知り、だから店ごと買えるだの、県議の人さえも怒鳴りつけられたのだと納得した。
しかしそんな人とはもう会う機会などないだろう。そう思っていたが違った。あの事件から後、彼は何度も彼女が勤める店を訪れるようになったのだ。
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