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第八話 案内人は

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「部屋に、飾る·····?  お花を、ですか·····?」

   「そんなまさか」とでも言いそうな表情でトオルは呟いた。

   何か変なことを言ったかしら·····。トオルの反応の意味がわからなかった私は、わからないなら聞けばいいとトオルに話しかける。

「·····どうしてそんなに驚いているのか知らないけれど、何か思う事があるなら言いなさい。今なら特別に大目に見てあげるわ」

   ほら、早く、とそんな意味を込めた眼差しを向ける。しかしトオルは何も言わない。私はひとつため息を着いて、トオルに言った。

「··········まあ、いいわ。とりあえず早く案内してくれないかしら?」
「··········はい、で、では、こ、こちらへ」


──────────────────

   そう言ってトオルに連れてこられたのは、温室だった。なぜ温室なの?と私が思っていると、トオルの呼び声によって、中年くらいの男性が奥の方からやって来た。

「これは、これは、王女殿下!  本日はどの様な用事でいらっしゃったのでしょうか」

   ゴマすりとはこういう事ね。と、両手を胸の前で擦り合わせながらニコニコと近づいてくる男に、少しだけ感心しながら返事を返した。

「部屋に飾る花を貰いに来たのよ」

   そう言いながら私は、もしかしたらこの人が庭園の管理者なのかもしれないと思い至った。そして、トオルはこの人に許可を貰いにここに来たのだろうと当たりをつけた。

   以前の私なら王城内の事においてわざわざ許可を貰うなんて考えなかったけれど。

「·····(花を)貰っていってもいいかしら?」
「··········、えっ!」

   やや遅れて目の前の男が驚いた声を出す。

「··········なぜ驚くのかしら?」

   私はその声を少しだけ不快に思いながら聞いた。すると、その私の不機嫌さを感じ取ったのか、男は勢いよく首を振った。

「あ、いえいえ!! 失礼。ゴホン!!  なんでもございません。····· お、王女殿下の部屋に飾って下さるとは、花たちも喜びましょう!  ど、どのような花をお望みで?」

「·····それは、見てから決めようと思っているところよ」
「さ、さようで。ではこちらに──」

   そう言って私のことを案内しようとする男の言葉を遮りゆるく首を振る。

「必要ないわ。案内ならトオルに頼んでいるの」
「──は?」

「さ、早く案内してちょうだい。どの花ならとってもいいの?」

   私は何故かポカンとする男を無視してトオルを見た。

「─えっ」
「ん?何?」

   何故トオルも驚いた顔をしてるの?

「お、俺ですか?」
「ええそうよ、最初からそう言っているじゃない?··········それとも、何かできない理由でもあるの?」
「·····いいえ、ありません·····」
「そう。なら、よろしくね」

   そう言って私はトオルに手を差し出した。

「え?」
「早く」
「は?」
「エスコート」
「ん?」
「··········いつまでわたくしを待たせる気なのかしら?」
「え、あ、ん??え、と、あ、は、はい」

   ちょこんとトオルの手が私の手と微かに重なる。私はトオルの手を優しく握って微笑む。

「で、どこにあるの?(貰ってもいいお花は)」
「あっ──」

「──おま、お待ちください!王女殿下!!」

   トオルの声を遮るように先程の禿げた男性が声を上げた。

「·····なにかしら?」

   突然の呼び掛けに私は驚いて男を見た。すると、男は慌てた様子で私に話しかけてきた。

「そ、そこの者は、王女殿下の案内役を務めるのにふさわしく無いかと思われます!」
「·····何故?」
「え、そ、それは」
「それは?」
「ま、まず、申し上げますと、そやつの生まれはっ·····」
「生まれ?  生まれが問題だと言うの?」

   ビクッとトオルの体がはねたのが分かった。繋いだままだった手が離れる。

「え、ええ!ええ!そうです!」

   何故か嬉しそうに頷く男に私は一度首を傾げたがすぐに納得した。確かに以前の私は卑しい出自の者を差別する傾向があった。でも今は──

   一度、トオルに目を向けたあと、男のほうを見る。そしてひとつ頷く。

「そう。それなら問題ないわね」
「はい?」

   私は考えたのだ。この男に案内を任せるかトオルに任せるか。結果、私の前世に影響された美意識がトオルを選んだ。

   トオルは磨けば光る容姿を持った逸材だ。
   私の目と勘がそう言っていた。

   だから、案内されるならトオルがいい。

「貴方、先程からうるさいわね。誰に口を聞いていると思っているのかしら?」
「お、王女殿下」

   驚きをかくせていない男に私はにこりと微笑んだ。

「私の決定に口答えするつもり?」
「い、いいいいえ!!め、滅相もございませんっ!!!」
「そう、良かったわ」

   私は一度離れてしまったトオルの手をとり、強く握った。

「トオル、案内して」

   トオルは俯かせていた顔上げると、何度かパクパクと口を動かし、最後にはしっかりと頷いた。

「──はぃ」

   その声は相変わらず小さい声だったけれど、今度は一度で届いた。

「よろしくね?」

   そう言いながら私は満足げに頷いた。



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