聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

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18 衝撃的な出会い

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『出るぞ』



「うん」



目を凝らせば神の森と向こうを隔てる結界が見える。

ゴク、と唾を飲み込み一歩足を踏み出せば一瞬だけふわっと空気の壁のようなモノを感じたけれど、もう一歩足を出すと呆気なく結界を超えられてしまった。



「・・・こっちの方が、暗い森だな」



神の森よりも鬱蒼としていて、空気もこちらの方が重い気がする。

これが普通の森の姿なのだろう。

神の森も木々は沢山あったけれど全体的に少し明るくて、慣れてしまえば恐怖など一切無かった。

出てきて初めて神の森は特別な場所なのだと実感する。

たった一人森に落とされた時はなんて奴だと爺さん神さんをちょっと恨めしく思ったけれど、今になってちゃんと庇護されていのだと感謝の思いでいっぱいになった。

しかし、そんな思いに耽る間もなくクロウから低い声が掛かる。



『ハルカ、気を付けろ。狼の匂いがする』



「っ!」



『来る!右だ』



構える間もなく、獣が木々の間から飛び出し俺を狙って牙を剥いた。

大きく跳躍した獣の鋭い爪が目の前に振り下ろされる。



「っ!ごめんっ!」



バリアを張ると同時に雷撃を放つ。

バリバリッ!と、静電気よりも強い電気が獣の体を通り抜け、一瞬後、灰色の大きな狼の体がドオンと地面に崩れ落ちた。



「・・・殺しちゃった?」



心臓がうるさい程に早く打っている。

殺そうと思って雷撃を放った訳ではない。

けれど、あんなに強い電気を浴びて動物は生きていられるものだろうか。

パチッパチッと電気の名残が残る狼の体に触れる勇気は無い。

でも、死んでいるのだとしたらこのまま放っておくのは多分良くない。

闇に取り込まれれば魔物化してしまう。



「どうしよう・・・」



途方に暮れていると、そんな俺を宥めるようにクロウが大きな頭をズリズリと腰に擦り付けてくる。



『大丈夫だ。こやつは生きておるよ。

気絶しているだけでそのうち目覚めるだろうから、今のうちに離れるとしよう』



「ホントか?」



『我はハルカに嘘はつかぬよ。ハルカ、少し急ぐ。我の背に乗れ』



「あ、うん。ありがと」



ほっとしたのもつかの間、ブフッと狼の口から息が漏れてビクっと身体が強張る。

慌ててクロウの背に乗り首に掴まると『行くぞ』と一声がありすぐに走り出した。

みるみる離れていく狼との距離に再び襲われる不安は薄れていくけれど、さっきの出来事はまだ覚悟の足らない自分への戒めのようにも感じて、きゅっと唇を噛んだ。



ここは神の森じゃない。

獣は自分の縄張りや餌場、家族を守るためにこちらに牙を剥いてくる。

それは獣の本能であり、自然な事だ。

やらなければやられてしまうのが普通の森だ。

あんな事があって実感もしたけれども。



「・・・やっぱり俺は、生き物を殺すのは慣れそうにないかも・・」



自分とクロウを守る為に、殺さなくてもせめて退けられるくらいにはならないととは思う。

結界魔法は使えるけれど、それではその結界を解除した途端に襲われるだろう。

とりあえず、殺さない程度の攻撃魔法を覚えなければ。



「ちょっとずつ頑張るから」



そう決意を新たにしたのに。



『なるべく早くに街に出よう。

望まぬ戦いでハルカの心が傷ついてゆくのは我も辛い』



クロウの甘やかしに苦笑した。

森を出るまでは俺だって思っていた事だ。

実際、攻撃に慣れない俺が獣や魔物に襲われたとして、咄嗟に動ける自信は全く無い。

さっきはクロウが知らせてくれたからどうにかなったけれども。



「クロウ、ありがと。確かに、早く森を抜けた方が俺もクロウも心中穏やかに過ごせるよね」



『そうだろう』



「うん」



話している間ももの凄いスピードで森を駆け抜ける。

そうして、体感時間では1時間以上経っただろうか。

太陽も傾き始めているけれど目の前の景色は一向に変わらず360度全部森だ。

うーん・・・。



「・・・出るのが遅かったから、森の中で1泊しないといけないかな・・・」



『そうだな。暗くなる前に場所を探すか』



「うん」



少しスピードを抑え、家を置くのに楽そうな場所を探しながら進む。

いくら魔法で場所を空けられるといっても、木が混んだ場所では魔力も時間も消費してしまうから、出来るだけでも開けた場所が良いんだ。



















しかし、いくら進んでも景色はそれほど変わらなかった。





「・・・森、深いな。クロウ、疲れてない?」



『我は大丈夫だが、あと1時間程で日が暮れるな』



「もう、魔法でやっちゃおうか・・・」



さすがに獣が襲ってくる森で暗い中作業はしたくない。

クロウの背から降りて辺りに結界を張り、木々を動かして空き地を作る。

元々狭い間隔で生えていた木々は空き地の周りだけぎゅうぎゅうに詰まっていくが、一晩だけごめんと思いながらどんどん木を動かす。



「これで最後・・・っ?!」



家が楽に置けるスペースが空き、もういいかと最後の1本を移動させた瞬間、ビクっと身体が硬直した。



どうして、こんなところに・・っ?



「ク、クロウ・・っ」



無意識にクロウを呼ぶと、周辺の見回りに行っていたクロウがすぐに戻ってきてくれた。

俺は目の前にある現状が怖くて、クロウの首にしがみ付く。

身体がガタガタ震えてしかたない。



『ハルカ?! どうかし・・・これは、魔物にやられたか。・・・しかし気配が、ああ結界か』



クロウはぎゅうっとしがみ付く俺の頭にモフモフの頭を擦り付け、安心させるようにベロリと頬を舐めた。



移動させた木の隣の木の根元に、人が倒れこんでいた。

顔色は青白くておそらく元は綺麗な色だっただろう金の髪はところどころ泥と血で汚れている。

身体の周りには血がたくさん流れていて生死は分からない。



「・・・この人、生きてる?」



クロウにくっついたまま訊くと、クロウはじっとその人を観察し、そして頷いた。



『生きてはいる。

それより驚くべきは、こやつの周囲、それほど強力ではないが結界が張られておる事よ。

自分の力か、魔道具かは分からぬがどちらにしても只人ではあるまい』



魔道具とは、魔物から出た魔石の力で何かを成す道具の事だ。

魔石の用途は多岐にわたり、火をつけるとかの生活に使うものは、小さい、いわゆる屑石で賄う。

しかし攻撃や結界を張るなど魔力を多く使う魔法の補助にはそれなりの大きさや質の物が必要で、それは庶民が手に出来るほど安価ではない、らしい。



そして、彼を包む結界が彼自身で張っていた場合、こんな、気を失っている状態でそんな事が可能なのはかなりの魔力とレベルがある者だと推測出来るという。

どちらにしてもかなりの地位やそれなりの家の者であろうと。



どちらにしても関わると面倒くさそうだ。

だけど。



「このままにしておいたら、この人、多分、死んじゃうよな・・・?」



肩からべったりと血が付いて、かなりの怪我を負っているのが少し見ただけでも分かる。

でも、俺の治癒魔法は俺の体液にしか反応しないらしいから、この人に俺の治癒は使えない。

どうしたらいいんだろう・・・。

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