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たるぱ
四
「ここが件の高校だね」
学び舎へと向かう生徒たちが行き交う校門前。活き活きと歩く若者たちが集うそこに、似つかわしくない礼服姿の男が二人。
口縄と贄田は、神去学園高等学校に来ていた。山垂曰く、学園長へのアポイントメントは取ってあるとのことだが、生徒たちは二人が気になるのかちらちらと視線を向け、友人と連れ立っている生徒はひそひそと何か話し合っている。
「このままここにいたら不審者として通報されそうだ」
「そりゃ困ったね。さっさと入っちゃおうか」
二人は校門横にある守衛室へと足を向け、生徒を見守っている警備員に声をかける。
「どうも、どうも。口縄心霊相談所の口縄カガチです。学園長先生と本日お約束をしているんですがぁ」
にこやかに口縄は話しかけるが、警備員はそのくたびれた容姿に怪訝な表情をしつつ来訪者の予定が書かれた表を見る。
「口縄心霊相談所……と、確認しました。身分証の提示をお願いできますか」
「えっ」
口縄と贄田は顔を見合わせた。
「身分証、必要なの?まいったな、僕も贄田くんも持ってないよ。なんでヤマさん言ってくれなかったんだ」
「それくらい当然持っていると思ったんだろう。どうにかしろ」
「ああ、もう、不便になったなあ」
小声で話し合う二人に、警備員は不信感を募らせる。そんな警備員に、口縄はずい、と顔を近づけた。
「警備員さん、ご苦労様です。身分証の確認も終わりましたよね?そろそろお邪魔してもよろしいでしょうか」
柘榴のような赤い瞳が前髪の隙間からうっすらと光り、それと目が合った警備員は徐々にぼんやりとした表情になっていく。それから、予定表の身分証明書チェック欄に丸をつけ、二人分の来訪者用カードが入ったストラップを差し出した。
「校内を歩く際は、こちらを首から下げるようお願いします」
「いやぁ、ありがとうございます。お仕事ご苦労様です」
きちんと首にストラップをかけ、来訪者用の出入り口から入る二人を警備員はなんの疑問もなく見送った。
「最近はしっかりしてるよねぇ。昔だったらすんなり入れたのにさ」
「時代が変わったんだろう。物騒な事件も多いしな」
入り口で革靴から来客用スリッパに履き替え、ぱたんぱたんと足音を立てながら二人は理事長室へと向かう。一階の廊下の突き当り、丁寧に『理事長室』と書かれた室名札が掲げられているためすぐにたどり着いた。
ノックをし、返事を待ってから入れば、正面の席に疲れた様子の男性が座っていた。質のいい背広を着て、上品な雰囲気のある中年の男性だが、その顔には疲労の色が隠せていない。
「はじめまして。神去学園高等学校の理事長、吉澤と申します。わざわざお越しいただき申し訳ないことです」
「これはこれはご丁寧に。口縄心霊相談所の口縄です」
「贄田です」
挨拶の後、来客用ソファに座るように促される。吉澤は内線で来客がある旨を誰かに伝え、ローテーブルを挟んだ対面のソファに座った。
「山垂さんから紹介を受けています。怪奇事件の専門家ですとか……。お気を悪くされたら申し訳ないのですが、正直、オカルトですとか、幽霊の仕業ですとか、あまり信じていないのです。しかし、あんな……」
吉澤はあまりよくない顔色を更に沈ませた。
「田知花君のお見舞いに行ったときに、彼の様子を見ました。首にくっきりと痕がついていて……。鬱血しているにしては黒く、まだなにかが絡みついているように感じました。もしかしたら本当に、人ではない何者かの仕業ではないか、と思うほど……」
「そこに山垂さんからの紹介があった、と」
「はい。依頼料は山垂さんが出すとおっしゃっていましたが、私の方からも……」
「ありがとうございます」
食い気味に礼を口にしたのは贄田だ。理事長は僅かに苦笑しながら話を続ける。その途中、先ほど内線で連絡を受けたらしい事務員の女性が紅茶と茶菓子を持ってきて、ローテーブルに置いた。すかさず口縄が茶菓子を口にして「高級なやつじゃない、これ」と呟く。
「生徒たちにはまだ知らせていません。余計な混乱を生まないように、と思ったのですが、かえって憶測も生んでいるようで。その、田知花君は、問題を起こしていたようで」
「虐めをしていた、でしたっけ」
「そこまで聞いてらっしゃるのですね。その通りです。まだ裏を取っている最中ですが、そのような証言があったと。本当に、お恥ずかしい話なのですが……。私はそのような話を今まで把握していませんでした。もし事実であれば、私は……」
深くため息を吐きながら、吉澤は項垂れた。事件の事だけでなく、事件が起きたことによって明るみになった事実も彼の疲労を加速させているらしい。
「はあ、大変ですな。我々は事件の調査しかできませんので、そちらはそちらの専門の方にご依頼ください」
口縄が興味なさげに言った。茶菓子と紅茶は空になっていて、贄田の分にまで手を出している。
「そ、そうですね。……調査をする際なのですが、お二人は外部指導員として招かれた、ということにしていただきたいのです。決して、その、心霊現象の調査であるといった事は生徒にバレないように」
「外部指導員ですか。いいですが、大丈夫ですかねぇ。我々は学校の事はあまりよくわからないもので」
「そこは、大丈夫かと思われます。我が校は部活動はそこまで活発ではありませんし、お二人が直接なにか指導するような事態にはならないかと。一応、部員や活動が少ない精神世界交流部と宇宙創造会を割り当てますので」
「変わった部活動ですねぇ」
「はい、その……三名の部員がいれば部を立ち上げられるので、このような個性的な部が稀に生まれるのです。最低限週に一回活動していればよし、ともしていますからね……」
「ま、それならどうにかなるでしょう。ボロが出ないうちに解決して見せますよ、はい」
「よろしくお願いします。ああ、そうだ。田知花君が屋上にいた際に一緒にいた生徒たちなのですが。この四人です。そのうちの、彼、捌幡理人くんが……いじめを受けていると訴えた生徒です。くれぐれも、くれぐれも刺激しないようお願いします」
この四人、と言われ見せられたのは生徒の顔写真と名前等が載った資料だ。生形、粂川、高尾、そして、捌幡。見てはいるもののおそらく覚えないであろう口縄に代わり、贄田がその生徒たちの名前と特徴を覚える。
「特別指導員が来ていることは、各クラス担任から周知してもらうように言っておきます。では……よろしくお願いします」
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