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第六話
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「トール! トール!」
ジェシカの声がする。
どうしたんだジェシカ?
もう朝か?
僕が目を開けると、大粒の涙を浮かべたジェシカがいた。
「ジェシカ……ぼ、僕は……」
状況が分からず目だけで周囲を見渡すと、そこは病院のようだった。
僕はベッドに寝かされていて、どうやらジェシカが付き添いをしてくれていたみたいだ。
と、意識が戻ったのも束の間、鼻に激痛が走った。
反射的に鼻に手をやろうとするも、ジェシカが「ダメ!」と僕の手を掴む。
「鼻の骨が折れてるから医者は触っちゃだめだって……」
「え? ほ、骨が?」
僕はだんだんと何があったのか思い出してきた。
レイラを追って、彼女の実家に行ったものの、待っていたのは彼女の父。
レイラの非行を証拠も交えて説明したが、信じてもらえず、顔面を殴られたのだった。
あの時の強烈な痛みを思い出すだけで、僕は体を震わせる。
それでも僕は何とか上半身を起こすと、ジェシカに言う。
「ジェシカ。あれからどうなった? レイラとの婚約破棄は? 成立したのか?」
「トールはもう一週間眠っていたよ。でね……婚約破棄のことなんだけど……」
ジェシカの顔色が急に曇り始める。
それと同時に、部屋の扉が開く音がした。
背中を嫌な予感が走った。
僕がゆっくりと扉の方へ顔を向けると、そこにはレイラの父がいた。
「トール。第二回戦といこうか」
「あ……」
逃げなければ。
僕の本能はそう告げていた。
しかし体は動かなかった。
レイラの父はそのまま僕のベッドの横の椅子に座ると、不気味な笑顔と共に口火を切った。
「トール。君が見せてくれた手紙のことだけど、調査の結果、レイラの筆跡ではないと判断された。それとジェシカだったかい? 君の腕の傷だけど……」
ジェシカがびくっと体を震わせる。
「君の母親から証言が取れたよ。誤って熱湯がかかってしまったみたいだね。ドジな子だって、彼女は笑っていたよ」
「そ、そんな……」
驚愕の事実に僕は驚きを露わにする。
そしてジェシカに顔を向けると、即座に口を開く。
「ジェシカ! どういうことなんだい!? もしかして僕に嘘をついていたのかい?」
レイラの非行を証明する手紙と火傷の跡は、エピソードと共にジェシカから告げられたものだった。
僕はそれを確固たる証拠だと信じていたが、どうやら違うらしい。
ジェシカは顔を真っ青にして涙を浮かべる。
「ごめんなさいトール……わ、私……あなたとどうしても一緒になりたくて……嘘をついたの……レイラは何も悪くないの……うぅ……」
「ジェシカ……君という人は……」
本来ならば僕は叱責の一つでも浴びせるべきだろう。
しかし、僕は心の底から彼女を愛していたので、とても怒る気にはなれなかった。
嘘をついていたことは悲しいが、だからといって愛がなくなるわけでもない。
「ジェシカ。涙をふいてくれ。たとえ君が嘘つきだったとしても僕の愛は本物さ。許すよ」
「ありがとう……トールぅ……」
「おい、ちょっと待て」
レイラの父の声が感動のシーンを遮った。
「お前たちが愛を育むのは勝手だが、私の娘への慰謝料はキチンと請求させてもらうぞ。トール、ジェシカ、二人ともだ。もちろん婚約も破棄させてもらう」
僕は潔く頷く。
「はい。もちろんです。お義父さん、本当にすみませんでした……ほら、ジェシカも」
「す、すみませんでしたぁ……」
彼は依然厳しい目をしていたが、小さく息をはくと立ち上がった。
そしてそのまま病室を去っていこうとする。
が、扉の前でふと立ち止まると、僕を見て言った。
「そういえばトール。今回の慰謝料で君の家は没落するかもしれんから頑張れよ。貸し借りはないのだから、もう金を支援することはしないからな」
「……え?」
レイラの父は最後に最悪な言葉を残すと、今度こそ病室を去った。
ジェシカの声がする。
どうしたんだジェシカ?
もう朝か?
僕が目を開けると、大粒の涙を浮かべたジェシカがいた。
「ジェシカ……ぼ、僕は……」
状況が分からず目だけで周囲を見渡すと、そこは病院のようだった。
僕はベッドに寝かされていて、どうやらジェシカが付き添いをしてくれていたみたいだ。
と、意識が戻ったのも束の間、鼻に激痛が走った。
反射的に鼻に手をやろうとするも、ジェシカが「ダメ!」と僕の手を掴む。
「鼻の骨が折れてるから医者は触っちゃだめだって……」
「え? ほ、骨が?」
僕はだんだんと何があったのか思い出してきた。
レイラを追って、彼女の実家に行ったものの、待っていたのは彼女の父。
レイラの非行を証拠も交えて説明したが、信じてもらえず、顔面を殴られたのだった。
あの時の強烈な痛みを思い出すだけで、僕は体を震わせる。
それでも僕は何とか上半身を起こすと、ジェシカに言う。
「ジェシカ。あれからどうなった? レイラとの婚約破棄は? 成立したのか?」
「トールはもう一週間眠っていたよ。でね……婚約破棄のことなんだけど……」
ジェシカの顔色が急に曇り始める。
それと同時に、部屋の扉が開く音がした。
背中を嫌な予感が走った。
僕がゆっくりと扉の方へ顔を向けると、そこにはレイラの父がいた。
「トール。第二回戦といこうか」
「あ……」
逃げなければ。
僕の本能はそう告げていた。
しかし体は動かなかった。
レイラの父はそのまま僕のベッドの横の椅子に座ると、不気味な笑顔と共に口火を切った。
「トール。君が見せてくれた手紙のことだけど、調査の結果、レイラの筆跡ではないと判断された。それとジェシカだったかい? 君の腕の傷だけど……」
ジェシカがびくっと体を震わせる。
「君の母親から証言が取れたよ。誤って熱湯がかかってしまったみたいだね。ドジな子だって、彼女は笑っていたよ」
「そ、そんな……」
驚愕の事実に僕は驚きを露わにする。
そしてジェシカに顔を向けると、即座に口を開く。
「ジェシカ! どういうことなんだい!? もしかして僕に嘘をついていたのかい?」
レイラの非行を証明する手紙と火傷の跡は、エピソードと共にジェシカから告げられたものだった。
僕はそれを確固たる証拠だと信じていたが、どうやら違うらしい。
ジェシカは顔を真っ青にして涙を浮かべる。
「ごめんなさいトール……わ、私……あなたとどうしても一緒になりたくて……嘘をついたの……レイラは何も悪くないの……うぅ……」
「ジェシカ……君という人は……」
本来ならば僕は叱責の一つでも浴びせるべきだろう。
しかし、僕は心の底から彼女を愛していたので、とても怒る気にはなれなかった。
嘘をついていたことは悲しいが、だからといって愛がなくなるわけでもない。
「ジェシカ。涙をふいてくれ。たとえ君が嘘つきだったとしても僕の愛は本物さ。許すよ」
「ありがとう……トールぅ……」
「おい、ちょっと待て」
レイラの父の声が感動のシーンを遮った。
「お前たちが愛を育むのは勝手だが、私の娘への慰謝料はキチンと請求させてもらうぞ。トール、ジェシカ、二人ともだ。もちろん婚約も破棄させてもらう」
僕は潔く頷く。
「はい。もちろんです。お義父さん、本当にすみませんでした……ほら、ジェシカも」
「す、すみませんでしたぁ……」
彼は依然厳しい目をしていたが、小さく息をはくと立ち上がった。
そしてそのまま病室を去っていこうとする。
が、扉の前でふと立ち止まると、僕を見て言った。
「そういえばトール。今回の慰謝料で君の家は没落するかもしれんから頑張れよ。貸し借りはないのだから、もう金を支援することはしないからな」
「……え?」
レイラの父は最後に最悪な言葉を残すと、今度こそ病室を去った。
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