1 / 11
1話 ガオガオ侯爵
しおりを挟む
1.
ここは、ガォガォ侯爵さまの、お屋敷。
「ひつじや、レオはどうした」
「レオ様は、
まだ、お休みになっておられます」
「さすがに、わが娘じゃ。
1日中、寝ておるのう」
「レオ様が、旦那さまに一番よく似ておられます」
「息子たちも独り立ちして、この館を出ていった。
この屋敷と家宝を継ぐのは、レオになるのう」
「家宝とは、黄金の骨のことで御座いますな。
たしか、初代侯爵さまが、
とある平原で見つけられたとか」
「初代が、澄みわたった空を眺めながら、
お散歩しておってのう。
ふと気づくと、見知らぬ平原に立っておったのじゃ。
それは、それは、美しい草原で、
そこにいたシマウマの群れを、ガブリ・・」
「ひゃぁー、
おやめ下さいまし、旦那さま」
「そうか、ひつじの心臓には、悪かったか。
じゃがのう、そのシマウマの骨が、
なんと、黄金で出来ておったのじゃ。
それから、わが家はトントン拍子」
「なんとも、うらやましいお話で」
「うらやましくなんぞ、無いわ。
大きな屋敷なぞ、手がかかるばかりで、
わしには、お前が羨ましい。
小さな家に、多くの家族、
必要な物があり、不要な物がない」
「必要な物が無いことが、多ゆうございます」
「それも人生の愉しみよ。わっはっはっ」
髭をゆらす侯爵さま。
「じゃがのう、おかげで喰うには困らん。
それには感謝しとる。
わが家の家訓は、『喰うに困らん』じゃ」
「ガォガォ家に、ふさわしい家訓でございます。
ただ、他にも家訓がありましたような」
「それはのう、『いっぱい繁殖』じゃ。
いちばん大切なことじゃよ。
わっはっはっ」
「まことに、そうでございますな。
イーヒッヒッ」
ちょっと下品な、ふたり。
――――――――――――――――――――――――――――
2.
「そういえば、侯爵さま。
最近、気になることが御座います。
レオ様が、吟遊詩人になりたいと申されております」
「なんじゃと。 いや、ならんぞ!
それは、絶対に許さん」
「そうで御座いましょうとも。
侯爵家の令嬢が、吟遊詩人なんぞに」
「そんなことで言うとるのではない。
我が家の家訓は、・・」
「喰うに困らんと、いっぱい繁殖でございますな」
「そうじゃ。
吟遊詩人が、腹いっぱい、喰えるか!
腹一杯でなければ、繁殖もできんぞ」
「さようで御座いますとも」
「『繁殖』こそが、初代侯爵からの家訓なのじゃ。
生きてゆくのは、我々ではないのじゃ」
「素晴らしいお言葉でございます。
さすがは、初代侯爵さま」
――――――――――――――――――――――――――――
3.
「お父様、お早うございます」
「おお、レオか。
ヒツジから聞いたのじゃが。
吟遊詩人になりたいと、申しておったようじゃの」
「ええ、村に、吟遊詩人が来ましたの。
尻っぽを風になびかせていて、それは素敵でしたわ」
「吟遊詩人になるなんぞ、わしは許さんぞ!
とんでもない話じゃ」
「あら、お父さま。
初代侯爵さまも、詩人だったのですよ」
「それとこれとは、別の話じゃ。
そもそも、我が家の家訓は・・」
「『いっぱい食べる』と、『繁殖する』でしょう。
わかっておりますわ。
わたくしも、子どもは好きですから。
だけど、お父さま、
命には、希求というものがございますの。
『命は、世界に憧れて生まれてくる』と、
初代侯爵さまも、仰られたとか」
「ムムム。お前は、
都合の良いことばかりを、覚えよって。
なんと言おうと、わしは許さんぞ!」
「ひどいわ、この分からず屋!」
侯爵の頭に、かぶりつく、レオ。
ぶら下がるレオに、噛みつく侯爵。
ライオンの親子げんかは、激しい。
「こんなことなら、
お前を、橋の下で拾ってくるのではなかったわ」
「え?」
「いや、いや、なんでもない」
「わたくしは、捨てられていた子だったのですか?」
「いや、いや、そんな訳では・・」
泣きながら、2階の寝室へ駆け上がる、レオ。
「旦那さま。
レオ様は、このお屋敷で、お生まれになりました。
なにゆえに、そのような嘘を・・」
「ふん、よい懲らしめじゃ。
頭を冷やすがよい」
――――――――――――――――――――――――――――
4.
2階の寝室のベッドで、泣き伏している、レオ。
窓の外を、そとねこが通りかかる。
空中を、ふわふわ。
「あら、そとねこさん。
今日は、どうしたの?」
「こっちへの風が吹いて来てのう、ここまで来てしもうたわ。
いつも風まかせなのじゃ。
しかし、おまえ、泣いておるのう?」
「わたくし、ガォガォ家の娘ではありませんでしたの。
橋の下で拾われた娘でしたの」
「おお、そういえば、
そんな話を、聞いたことが、
あったような、無かったような・・」
「やはり、そうでしたのね」
「そういえば、わしも、赤子の頃、
橋の下で、泣いていたような気がするのう」
「わたくし達、捨て子でしたのね!」
手を取り合って、泣き出す、ふたり。
「そうなのじゃ。そうなのじゃ。
みんな、捨て子なのじゃ」
うっかり格言ができる、そとねこ。
「もう、屋敷を出るしかないのう」
「え? お父さまが、心配なさいますわ」
「尻っぽがふさふさの吟遊詩人が東へ旅立ったと、
錆びた風見鶏が、言うておったぞ」
「まあ、そうでしたの。
いざ参りましょう、東へ」
すっかり、父親を忘れる、レオ。
ここは、ガォガォ侯爵さまの、お屋敷。
「ひつじや、レオはどうした」
「レオ様は、
まだ、お休みになっておられます」
「さすがに、わが娘じゃ。
1日中、寝ておるのう」
「レオ様が、旦那さまに一番よく似ておられます」
「息子たちも独り立ちして、この館を出ていった。
この屋敷と家宝を継ぐのは、レオになるのう」
「家宝とは、黄金の骨のことで御座いますな。
たしか、初代侯爵さまが、
とある平原で見つけられたとか」
「初代が、澄みわたった空を眺めながら、
お散歩しておってのう。
ふと気づくと、見知らぬ平原に立っておったのじゃ。
それは、それは、美しい草原で、
そこにいたシマウマの群れを、ガブリ・・」
「ひゃぁー、
おやめ下さいまし、旦那さま」
「そうか、ひつじの心臓には、悪かったか。
じゃがのう、そのシマウマの骨が、
なんと、黄金で出来ておったのじゃ。
それから、わが家はトントン拍子」
「なんとも、うらやましいお話で」
「うらやましくなんぞ、無いわ。
大きな屋敷なぞ、手がかかるばかりで、
わしには、お前が羨ましい。
小さな家に、多くの家族、
必要な物があり、不要な物がない」
「必要な物が無いことが、多ゆうございます」
「それも人生の愉しみよ。わっはっはっ」
髭をゆらす侯爵さま。
「じゃがのう、おかげで喰うには困らん。
それには感謝しとる。
わが家の家訓は、『喰うに困らん』じゃ」
「ガォガォ家に、ふさわしい家訓でございます。
ただ、他にも家訓がありましたような」
「それはのう、『いっぱい繁殖』じゃ。
いちばん大切なことじゃよ。
わっはっはっ」
「まことに、そうでございますな。
イーヒッヒッ」
ちょっと下品な、ふたり。
――――――――――――――――――――――――――――
2.
「そういえば、侯爵さま。
最近、気になることが御座います。
レオ様が、吟遊詩人になりたいと申されております」
「なんじゃと。 いや、ならんぞ!
それは、絶対に許さん」
「そうで御座いましょうとも。
侯爵家の令嬢が、吟遊詩人なんぞに」
「そんなことで言うとるのではない。
我が家の家訓は、・・」
「喰うに困らんと、いっぱい繁殖でございますな」
「そうじゃ。
吟遊詩人が、腹いっぱい、喰えるか!
腹一杯でなければ、繁殖もできんぞ」
「さようで御座いますとも」
「『繁殖』こそが、初代侯爵からの家訓なのじゃ。
生きてゆくのは、我々ではないのじゃ」
「素晴らしいお言葉でございます。
さすがは、初代侯爵さま」
――――――――――――――――――――――――――――
3.
「お父様、お早うございます」
「おお、レオか。
ヒツジから聞いたのじゃが。
吟遊詩人になりたいと、申しておったようじゃの」
「ええ、村に、吟遊詩人が来ましたの。
尻っぽを風になびかせていて、それは素敵でしたわ」
「吟遊詩人になるなんぞ、わしは許さんぞ!
とんでもない話じゃ」
「あら、お父さま。
初代侯爵さまも、詩人だったのですよ」
「それとこれとは、別の話じゃ。
そもそも、我が家の家訓は・・」
「『いっぱい食べる』と、『繁殖する』でしょう。
わかっておりますわ。
わたくしも、子どもは好きですから。
だけど、お父さま、
命には、希求というものがございますの。
『命は、世界に憧れて生まれてくる』と、
初代侯爵さまも、仰られたとか」
「ムムム。お前は、
都合の良いことばかりを、覚えよって。
なんと言おうと、わしは許さんぞ!」
「ひどいわ、この分からず屋!」
侯爵の頭に、かぶりつく、レオ。
ぶら下がるレオに、噛みつく侯爵。
ライオンの親子げんかは、激しい。
「こんなことなら、
お前を、橋の下で拾ってくるのではなかったわ」
「え?」
「いや、いや、なんでもない」
「わたくしは、捨てられていた子だったのですか?」
「いや、いや、そんな訳では・・」
泣きながら、2階の寝室へ駆け上がる、レオ。
「旦那さま。
レオ様は、このお屋敷で、お生まれになりました。
なにゆえに、そのような嘘を・・」
「ふん、よい懲らしめじゃ。
頭を冷やすがよい」
――――――――――――――――――――――――――――
4.
2階の寝室のベッドで、泣き伏している、レオ。
窓の外を、そとねこが通りかかる。
空中を、ふわふわ。
「あら、そとねこさん。
今日は、どうしたの?」
「こっちへの風が吹いて来てのう、ここまで来てしもうたわ。
いつも風まかせなのじゃ。
しかし、おまえ、泣いておるのう?」
「わたくし、ガォガォ家の娘ではありませんでしたの。
橋の下で拾われた娘でしたの」
「おお、そういえば、
そんな話を、聞いたことが、
あったような、無かったような・・」
「やはり、そうでしたのね」
「そういえば、わしも、赤子の頃、
橋の下で、泣いていたような気がするのう」
「わたくし達、捨て子でしたのね!」
手を取り合って、泣き出す、ふたり。
「そうなのじゃ。そうなのじゃ。
みんな、捨て子なのじゃ」
うっかり格言ができる、そとねこ。
「もう、屋敷を出るしかないのう」
「え? お父さまが、心配なさいますわ」
「尻っぽがふさふさの吟遊詩人が東へ旅立ったと、
錆びた風見鶏が、言うておったぞ」
「まあ、そうでしたの。
いざ参りましょう、東へ」
すっかり、父親を忘れる、レオ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる