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オトナリサン
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晴れて大学に合格し、一週間前からその大学の近くで一人暮らしを始めた。
実家は東京だが、大学は四国の田舎だったため飛行機に人生で初めて乗ったが中々怖かった。鉄の塊が空を飛ぶのは未だに不思議だ。
アパートに越した二日目、借りていたアパートの隣の部屋の人に挨拶に伺おうかと悩んでいた時に、インターホンが鳴った。白いパーカーに長くさらさらな髪の、綺麗な女性が映っていた。お隣さんらしい。
「よろしくお願いします。」
と挨拶を交わした。相手も大学生らしい。とても愛想がいい人だった。
その日は挨拶だけだったためそこで別れた。その後にお隣さんが若い女性というラッキーを噛み締めた。
このアパートは4階建て。外から見ると、右の端に階段があり、そこから左に部屋が一階ごとに6室連なる。俺の部屋は2階の1号室。階段側の角部屋だった。壁が薄いのか、階段を上り下りする音がよく聞こえる。特に朝はドタドタと先を急ぎ階段を踏む足音が聞こえる。
しかし、丁度、一昨日つまり二日前、変なことに気がついた。毎日同じ時間に、同じ変な音が聞こえるのだ。
夜の12時10分丁度に、「リン、リン、」という鈴の音である。ゆっくりとしたテンポで、何とも言い難い心地悪さの鈴だ。
角部屋だとこんなこともあるのか、と自身の部屋選びを後悔したが、勿論そんなことだけで部屋を変えようなんては思ってもいなかった。
ただ、昨日、大学の新歓があり、帰りが遅くなった。丁度12時10分だった。あの変な音の正体がわかるかも、と少し変な期待を抱いていた。が、結果的にはこれがとんでもない不運の始まりだった。
アパートのロビーに入り、階段を登ろうとした。が、俺の目にあるものが飛び込んできた。すげ笠、という三角の藁の帽子を被り、白い衣に身を包み、右手には太い杖を持っているお隣さんがゆっくりと階段を登っている姿だった。杖の先には鈴がついており、その杖を付くたびに鈴が「、リン」と揺れる。
何事かと声をかけようとしたが、声が出ない。不穏な空気が充満している。声をかけてはいけない気がする。全身から汗が噴き出る。後退りした足が、ロビーにあったゴミ箱にあたり、カツンと音を立てた。お隣さんはゆっくりとこちらを振り返った。が、その目は虚としていて意思が感じられないようだった。何も言わず、お隣さんはまた振り返り、ゆっくりと足を上へ進めた。
怖気ついて、新歓で連絡先を交換した友人に止めてもらうことになった。地元の人間らしい彼は、こんなことがあったというと、怖い話が好きなのかテンションを上げた。しかし、彼女の服装を伝えるとそのテンションはピタリと止まった。
「…七人みさき…」
「え?」
「いや…七人みさきっていう妖怪知ってる?」
妖怪?馬鹿馬鹿しい。流石にこの年になって、そんなものには驚かない。
「この辺では有名だけど。そんなことはいい。七人みさきの格好をして、人に見られると、それを見た人は呪われる、っていう言い伝えがある。」
神妙な面持ちで語った友人に対して俺はヒッと情けない声を上げた。友人はゆっくり続ける。
「もちろんただの言い伝えだけど…呪われると、7日で、死ぬ、とか。」
お隣さんは何であんなことを。
俺は本当に死ぬんだろうか。
冷や汗を拭ったが、青くなった唇は戻らなかった。
実家は東京だが、大学は四国の田舎だったため飛行機に人生で初めて乗ったが中々怖かった。鉄の塊が空を飛ぶのは未だに不思議だ。
アパートに越した二日目、借りていたアパートの隣の部屋の人に挨拶に伺おうかと悩んでいた時に、インターホンが鳴った。白いパーカーに長くさらさらな髪の、綺麗な女性が映っていた。お隣さんらしい。
「よろしくお願いします。」
と挨拶を交わした。相手も大学生らしい。とても愛想がいい人だった。
その日は挨拶だけだったためそこで別れた。その後にお隣さんが若い女性というラッキーを噛み締めた。
このアパートは4階建て。外から見ると、右の端に階段があり、そこから左に部屋が一階ごとに6室連なる。俺の部屋は2階の1号室。階段側の角部屋だった。壁が薄いのか、階段を上り下りする音がよく聞こえる。特に朝はドタドタと先を急ぎ階段を踏む足音が聞こえる。
しかし、丁度、一昨日つまり二日前、変なことに気がついた。毎日同じ時間に、同じ変な音が聞こえるのだ。
夜の12時10分丁度に、「リン、リン、」という鈴の音である。ゆっくりとしたテンポで、何とも言い難い心地悪さの鈴だ。
角部屋だとこんなこともあるのか、と自身の部屋選びを後悔したが、勿論そんなことだけで部屋を変えようなんては思ってもいなかった。
ただ、昨日、大学の新歓があり、帰りが遅くなった。丁度12時10分だった。あの変な音の正体がわかるかも、と少し変な期待を抱いていた。が、結果的にはこれがとんでもない不運の始まりだった。
アパートのロビーに入り、階段を登ろうとした。が、俺の目にあるものが飛び込んできた。すげ笠、という三角の藁の帽子を被り、白い衣に身を包み、右手には太い杖を持っているお隣さんがゆっくりと階段を登っている姿だった。杖の先には鈴がついており、その杖を付くたびに鈴が「、リン」と揺れる。
何事かと声をかけようとしたが、声が出ない。不穏な空気が充満している。声をかけてはいけない気がする。全身から汗が噴き出る。後退りした足が、ロビーにあったゴミ箱にあたり、カツンと音を立てた。お隣さんはゆっくりとこちらを振り返った。が、その目は虚としていて意思が感じられないようだった。何も言わず、お隣さんはまた振り返り、ゆっくりと足を上へ進めた。
怖気ついて、新歓で連絡先を交換した友人に止めてもらうことになった。地元の人間らしい彼は、こんなことがあったというと、怖い話が好きなのかテンションを上げた。しかし、彼女の服装を伝えるとそのテンションはピタリと止まった。
「…七人みさき…」
「え?」
「いや…七人みさきっていう妖怪知ってる?」
妖怪?馬鹿馬鹿しい。流石にこの年になって、そんなものには驚かない。
「この辺では有名だけど。そんなことはいい。七人みさきの格好をして、人に見られると、それを見た人は呪われる、っていう言い伝えがある。」
神妙な面持ちで語った友人に対して俺はヒッと情けない声を上げた。友人はゆっくり続ける。
「もちろんただの言い伝えだけど…呪われると、7日で、死ぬ、とか。」
お隣さんは何であんなことを。
俺は本当に死ぬんだろうか。
冷や汗を拭ったが、青くなった唇は戻らなかった。
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みんなの感想(1件)
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