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政略結婚であっても、お互いを尊重しあうことはできる。時間をかけて絆を深めていけばいい。そう思っていたのに、元婚約者には私との婚約よりも前から恋人がいたらしい。そうであれば最初から断ってくれればよかったのに。恋愛感情はなくとも、次は誠実な人がいい。そう父に伝えてから数週間後、婚約者候補として現れたのが彼だった。
「サフィール・アパタイトと申します」
彼は近衛騎士団に所属しているらしい。何故そんな将来有望な人が相手に?と不思議に思ったけれど、恋に浮かれた私はそんなことすぐに忘れてしまった。あんなにわかりやすく偵察を入れられていたというのに、父は何故怪しまなかったのだろう。大それたことをしようとしていた割に詰めが甘すぎる。父を止めようにも多忙であまり家で会う機会もないし、手紙なんて出したらそれこそ証拠として私まで疑われてしまう。私はどう動くのが正解なのか。このまま何もせず過ごしたら?また彼が現れて…。偽りの恋で命を落とすことになるなんてごめんだ。もう彼とは会わないほうがいい。そのためにはさっさと誰かと婚約してしまおう。自分自身で相手を探す。近日開催される夜会に向けて準備を始めた。
「離してください」
夜会で話しかけてきた男性に庭園で花を見ようと誘われたのだが、明らかに向かっている方向が違う。掴まれた腕を振りほどきたいが男性の力にかなうはずない。周りからどんどん人がいなくなる。どうすればいいか焦っている時だった。
「私の婚約者に何か用かな」
聞き覚えのある声に驚いて跳ねる肩に腕が回される。
「あ、あなたは。失礼しましたっ」
男が去っていくのを確認すると肩に回った手が離れた。礼を言うために相手の方へ振り向くと、予想通りの人物だった。
この国で数少ない魔法騎士の1人―――シオン・ルドベキア
「助けていただきありがとうございました」
彼と目を合わせると、しばし沈黙が流れる。何やらじっと覗き込まれているようで落ち着かない。
「…君はクレマチス家の」
「リナリアと申します」
「咄嗟に婚約者などと名乗ってしまってすまない。君の本当の婚約者はどこに?謝らないといけないな。いや、君を1人にして危険にさらすなど」
「婚約者はおりません。でなければこの場にはいませんわ」
「…そうだったか」
「えぇ。でも今日はもう帰ることにします」
会場に戻ってまたあの男がいても困る。婚約者探しはまた日を改めよう。この場を去ろうとする私を、目の前の魔法騎士が引き留める。
「君は婚約者を探している?」
「そうですけど」
彼のことをよく知らないが、おしゃべり好きなのかもしれない。それか、トラブルに巻き込まれた人間を放っておけない優しい人間なのか。おそらく後者だろう。勝手に脳内で為人を想像する。しかし、次に彼から発された言葉はあまりにも想定外のものだった。
「では私と婚約してくれるか?」
「サフィール・アパタイトと申します」
彼は近衛騎士団に所属しているらしい。何故そんな将来有望な人が相手に?と不思議に思ったけれど、恋に浮かれた私はそんなことすぐに忘れてしまった。あんなにわかりやすく偵察を入れられていたというのに、父は何故怪しまなかったのだろう。大それたことをしようとしていた割に詰めが甘すぎる。父を止めようにも多忙であまり家で会う機会もないし、手紙なんて出したらそれこそ証拠として私まで疑われてしまう。私はどう動くのが正解なのか。このまま何もせず過ごしたら?また彼が現れて…。偽りの恋で命を落とすことになるなんてごめんだ。もう彼とは会わないほうがいい。そのためにはさっさと誰かと婚約してしまおう。自分自身で相手を探す。近日開催される夜会に向けて準備を始めた。
「離してください」
夜会で話しかけてきた男性に庭園で花を見ようと誘われたのだが、明らかに向かっている方向が違う。掴まれた腕を振りほどきたいが男性の力にかなうはずない。周りからどんどん人がいなくなる。どうすればいいか焦っている時だった。
「私の婚約者に何か用かな」
聞き覚えのある声に驚いて跳ねる肩に腕が回される。
「あ、あなたは。失礼しましたっ」
男が去っていくのを確認すると肩に回った手が離れた。礼を言うために相手の方へ振り向くと、予想通りの人物だった。
この国で数少ない魔法騎士の1人―――シオン・ルドベキア
「助けていただきありがとうございました」
彼と目を合わせると、しばし沈黙が流れる。何やらじっと覗き込まれているようで落ち着かない。
「…君はクレマチス家の」
「リナリアと申します」
「咄嗟に婚約者などと名乗ってしまってすまない。君の本当の婚約者はどこに?謝らないといけないな。いや、君を1人にして危険にさらすなど」
「婚約者はおりません。でなければこの場にはいませんわ」
「…そうだったか」
「えぇ。でも今日はもう帰ることにします」
会場に戻ってまたあの男がいても困る。婚約者探しはまた日を改めよう。この場を去ろうとする私を、目の前の魔法騎士が引き留める。
「君は婚約者を探している?」
「そうですけど」
彼のことをよく知らないが、おしゃべり好きなのかもしれない。それか、トラブルに巻き込まれた人間を放っておけない優しい人間なのか。おそらく後者だろう。勝手に脳内で為人を想像する。しかし、次に彼から発された言葉はあまりにも想定外のものだった。
「では私と婚約してくれるか?」
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