君は死なせない

秋元智也

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19話

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忘れられない。

あの時見た霧島は確かに、上田の後ろを見て言った。

上田が振り返った時にはもう誰もいなかった。
そもそも、影の霧島が見えるのは上田だけだったはずだ。
なら、どうして見えたのだろう?

病室へと行っても、目覚めない霧島はベッドに眠ったままだった。

「どうして……やっと思い出したのに……」

霧島を庇ってやっと思い出した記憶。
あの時は大怪我してしまったが、今回はしっかり護れた。
身体を鍛えた甲斐があったと言うものだった。

なのに、こんな事では、意味がない。

「早く起きてくれよ……」

怪我もないし、身体に異常もない。
ただ、眠っているだけなのだ。

あれから、近くの防犯カメラの映像から永人がやった事を立証できた。

それだけじゃない。
ネットでの書き込みも永人のパソコンから出されたものだと判断され
完全に家から…いや、戸籍からも抹消されたようだった。

しかし、雅人がこの調子ではどうしようもない。

義理の母親は事故死として処理するようだが、実際は交際相手からの
嫉妬によるものだと分かっていた。

が、世間体を慮ってか、事故死にしたらしい。

父親の秘書と言う人が何度か病室へと来ていたが、溜息をついて帰っ
ていった。

自分の子供なのに、身にもこないらしい。
雅人はそんな父親の事をどう思っているのだろう。

花瓶の花を替えると窓を開けた。

「風が気持ちいいだろう?早く起きろよ?」

ただ、毎日話しかけるだけだが、それでも毎日のように来ていた。
クラスでは誰も見舞いにすらこない。

あれだけ学校中を騒がせたのだから…。
と先生達はやっと肩の荷が降りたような顔をしてした。
それは決して、彼のせいではない。

ただ、巻き込まれただけなのだ。
そう、思っているのは上田だけなのかもしれないと思い知らされたの
だった。

『来たのか…?』

「お前は……どうして………どうして霧島はこんな……」

『違う………少し眠っているだけ………すぐに目覚める。全て忘れて……
 その方がいい………全てが終わった後で………』

「全て?終わった後って何を言って?」

霧島を見下ろす影はスウッと離れていく。
消えるように壁に消えると廊下にもいなくなっていた。

上田にはわからなかった。

まだ終わりではないのだろう。

「今度は誰を殺すつもりなんだよ……」

霧島が眠っているうちに何かを起こすつもりなのだろう。
彼の影は一体何をしたかったのだろう。

嫌な胸騒ぎを感じながら病室を後にしたのだった。
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