INNOCENT BOY

秋元智也

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17話 すれ違い 2

大学の講義が終わると、お目当ての学生はもうい
ない。

どんなに慌てて追いかけても、追いつけない。

「はぁ~~~」
「先生がため息って珍しいですね~」

三浦が聞くと、蓮城は伊勢谷の事は話せないので
説明に困る。
だが、三浦にとって他人の事情など興味がないら
しい。

「今度の朗読会、ぜひ伊勢谷くんも誘いたいのよ
 ねー」

今度行われる朗読会は、結構大きなホールを使う
のだ。

そして、それは声だけの掛け合いになっていた。

サークル長である三浦と伊勢谷の声の掛け合い
はぜひやりたいと兼ねてから考えていた事だっ
た。

「そう言えば、伊勢谷くんってスーパーで働い
 てるのよね~、最近お遣いで行ったスーパー
 で、彼を見かけたのよ~」
「それはどこのスーパーだ?」
「何?その食いつき~、先生キモイです。せっ
 かくのイケメンが台無しです」
「俺は自分の事をイケメンなど思って…ない」
「まぁ、いいけど~……」

そう言うと、すんなり教えてくれたのだった。


真面目に働く伊勢谷浅緋を見守ると、声をかけ
ようか悩む。

そのうちに彼が帰って行くのを見かけた。
そう言えば、彼の暮らしているアパートが側に
あるのだった。

迷ったが、蓮城は後を付ける事にした。

だが、浅緋が向かった先は少し違っていた。
2丁目のそこはゲイバーやキャバクラなど怪し
い店が軒を連ねている場所へと浅緋は入って
行ったのだった。

「ここは……」

少し古い建物に入っていく彼を見ながら、蓮城
も後を追って入ったのだった。

彼は一番奥の隅の席にいる。
蓮城はすぐに声をかけるように真っすぐに彼の
方へと向かっていったのだった。



     ♦︎



浅緋はいつものようにノンアルコールのカクテ
ルを手に味わいながら飲み干す。

「ママ、あのね…」
「裏手へいきなさい」
「え……」

秀夫の静かな声に、何かあったのかと不安に思
うと、すぐ後ろから声が聞こえてきた。

「伊勢谷くん……」

聞き覚えのある声に、浅緋は振り返ると驚きを
隠せなかった。

そこにいたのは、蓮城だったからだ。
この店の常連だったのだろうか?それとも……。

不安に思うより先に荷物を掴むと裏手へと向かう。

すぐに走り出したはずだった。
だが、一足遅く捕まると引き戻されたのだった。

「待ってくれ。せめて話を…」
「……」

蓮城の声は切迫詰まったような気がして、浅緋
は抵抗をやめた。

だが、その瞬間に後ろから来ていた柿崎が蓮城
の腕を掴むと捻り上げていた。

「悪いな、部外者の暴力はここでは許さねーん
 だわ」
「違う、俺は彼の大学の…」
「そんな事はどうでもいいんだよ?こいつを虐
 めるってことが俺は許せねーんだよ」

秀夫が柿崎の方へと来ると、指をクイッと示し
た。

「裏で話しなさい。勿論、この人も一緒よ」
「あぁ、そう言う事だ」

蓮城を離す気はないのか、そのまま奥の倉庫へ
と連れていく。

そこには椅子だけが置かれており、あとは色々
と棚に酒や、食材が置かれていた。

「まぁ、座れよ。浅緋に用があるって?」

椅子に腰掛けると、柿崎は蓮城に進めた。

「すまない。どうしても……聞きたかったんだ。
 あの時、ホテルに来た君に……どうしても…」
「ごめんなさい……僕、騙したくて行ったんじ
 ゃないんです。ハルくんに、代わりに行って
 来いって言われて……」

二人が同時に謝ると、お互い話を伝えた。

「なら、あんな事をずっとやって来たわけでは
 ないと言う事かい?」
「はい……あの日が初めてで…」

恥ずかしそうに言う浅緋に蓮城は額を押さえた。

「はぁ~……よかった……、いや、すまない。初
 めてだったのに、あんな…」

まさか、気になっていた子がデリヘルボーイと
して働いていたと知って、あの時はショックだ
ったのだ。

でも、初めてだったのなら、もっと優しくする
べきだった。

「そのデリヘルボーイって前にも言ってたな~
 ハルってのは、身内なんだろ?なんで代わり
 に行ったんだ?」

柿崎はそこが腑に落ちないという。

「多分、僕が片思いで悩んでいたせいだと……
 見知らぬ男に抱かれれば忘れられるって、た
 だ、自分が行きたくなかっただけかもしれま
 せんが……」

チラッと蓮城見ると、目があった。

「伊勢谷くんは好きな人がいたのか?」
「………」

こくりと頷くと、浅緋は柿崎を見上げた。

「僕の恋愛対象は男性なんです。だから……叶う
 わけもなくて……だから」
「俺じゃだめか?……いや、身体の相性もいいし 
 ……違っ…そういう事じゃないな。えーっと」
「ふふっ……、蓮城先生は女性達に人気じゃない 
 ですか。僕を選ぶ理由はないですよ」
「違うんだ。俺は君を前から知ってて……」

そして、柿崎の前で入試の時の事を話したのだっ
た。

あの時の青年が気になっていた事。
そして、蓮城の恋愛対象も男である事。

そして、それを職場にも、親にも話せていない事。
あの日が初めて見知らぬ子を抱こうと思った事な
どを話し始めた。

赤裸々に話し出すと、徐々に顔が赤くなっていく。
黙って聞いていただけの柿崎が、席を立つと浅緋
の肩に手を置いた。

「まぁ、今の状態なら、大丈夫そうだな?」
「はい、すいません。」
「いいって、何かされたらすぐに大声を出せよ」
「はいっ!」

そして気まずいままだった空気がやっと落ち着
いた気がしたのだった。
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