INNOCENT BOY

秋元智也

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46話 誘拐

K大から出て来ると、見慣れない黒塗りの車が目
の前に止まった。

浅緋は怪訝に思いながら避けるように横を通り過
ぎようとすると、急に窓が開いた。

「久しぶりだね?」
「……?」

浅緋には見覚えはない。
自分ではないと思うと、無視して歩き出した。

「伊勢谷くん、どこへ行くのかな?無視は無いだ
 ろう?とんだ挨拶じゃないか?」
「………どちら様ですか?」
「……?」

浅緋の切り返しに、宇田亮平は目を丸くさせる。

まるで、知らない人のような言い方だったからだ。

「そう言われる日が来るとはねぇ~、蓮城という
 男とは仲がいいようだね?客と寝てさぞかし幸
 せだろう?」
「なんで先生の事……」
「まぁ、話があるから乗りなさい。すぐに終わる
 から。それともあの男の職場に行った方がいい
 のかな?今は確か……M大だったかな?」

宇田の言葉に、怪しいと分かっていたが逆らえな
かった。

向こうは自分のことを知っている?
だが浅緋は初めて見た顔だった。
蓮城の事を客と言っていたから、きっとハルの関係
者なのだろう。
となると、デリヘルボーイの店関係だろうか?

おとなしく従うように車に乗ると、ゆっくり車は動
き出した。

「どこへ行くんですか?」
「事務所だよ、いつものなじみだろう?」
「あの……勘違いしてませんか?僕は…」
「伊勢谷春陽。履歴書に書いた名前はそうなってい
 たね?それと、契約書見てなかったのかい?」
「契約書?」
「そう、勝手に辞める事は許されないと。あと、辞
 めるなら早めの通告。それをしない場合こっちの
 条件を飲む事……とね」

薄い紙を渡されると、そこにはビデオ撮影の承諾書
と書かれていた。

「こんなのやりません!それに僕は…」
「我儘は許されないのですよ?ハル。さぁ、付きま
 したよ?中に入りなさい」

車が止まると、そこはピンク色のお店が立ち並ぶ繁
華街だった。

咄嗟に逃げようと走り出したが、すぐに阻止されて
しまった。

「逃げようなどとは思わない方がいい。今日、しっ
 かりヤる事ヤれれば、自由にしてあげますよ」

目の前にスプレーのようなものが出されると顔に水
がかかる。

匂いがあるわけではなかったので袖で拭こうとし
たのだった。

だが、そんな矢先……足から崩れ落ちるように力が
抜けて行く。

目の前がぐらっと傾き意識が遠のいていったのだっ
た。

「……まこ…とさっ………」

浅緋を抱え上げると鞄と一緒に部屋の中へと運ば
れて行くのだった。




その頃、M大で講義が終わると蓮城は浅緋の携帯
に連絡を入れた。

電話は何度か呼び出し音がした後で留守電へと切
り替わった。

浅緋は今日は早く終わってバイトへ行くと言って
いたので気付かない事もあるだろう。
だが、今日はなぜか嫌な胸騒ぎがしてラインにも
メッセージを入れる。

既読にならないのを確認しながらも、とあるアプ
リを起動させたのだった。

本来なら、使うつもりはなかった。
浅緋の寝ているうちにこっそりダウンロードして
見た目にアイコンが残らないように入れておいた
ものだった。

それは、位置情報と移動経路を追跡するアプリだ
った。

セキュリティー面から親が子供に付ける事はある。
それを、蓮城は恋人になったばかりの時に浅緋の
携帯に入れたのだった。

信じていないわけではない。
だが、悪い虫が付かないようにとの警戒の為だと
自分に言い聞かせてこっそり入れておいたのだ。

たまに、暇になるとどこにいるのかを検索する事
が増えたせいか、見るのが癖になってしまってい
たのだった。

いつものように位置情報を追跡すると、予想外の
場所にいる事がわかったのだった。




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