彼女の犬になった日

秋元智也

文字の大きさ
14 / 32

13話 理由を言いなさい

しおりを挟む
湯を貯めると身体を洗い、中へと浸かった。

彰は自分の匂いが大西と同じものだと気付くと少し照れ臭くなる。

「僕は…こんな感情持っちゃいけないんだ…」

自分は買われたんだ。
そんな事一番彰自身がわかっている。
それでも…辛い…。

辞めたいけど、言えない。

ゆっくりと湯に浸かるとさっき殴られた場所が痛みだす。
身体中痛い。

だからと言って玲那からもらったお金を渡せば穏便に済んだのか?
それは違う気がする。

あれは自分のであって、自分のじゃない。
そんな事の為に使いたくはなかったからだ。

今日は顔面も殴られた。
いつもは身体だけだったからバレなかったが、今日は顔を見られれば
バレてしまう。

どうしたらいいのだろう。

「先に食べててくれないかな~」
「何を先に食べるの?」

いきなり声が聞こえてきて驚いた。
風呂のドアが開くとタオル一枚だけしか巻いていない姿で入ってき
たからだった。

「ぅわぁっ!!」

大声を出すと後ろに向く。

「どうしたの?一緒に入っちゃおうっかな~って思ったんだけど?」
「どう言う神経してるんだよっ…言ってくれればすぐに出るのに…」
「違う違う、一緒に入ろって言ってるんだよ?ここ、広いでしょ?」

一体何を言っているのか!
混乱した彰には分からない。

慌てて出ようにも湯から出れば全部丸見えなのだ。
じっと見られている気配に出ることもできない。

「ちゃんとタオル巻いてるから平気だよ?」
「そう言う問題じゃ………」

向き直って言おうとすると、ハラっとタオルを解いた。

「ね?タオルだけでしょ?」
「○△♯×!」

言葉にならない言葉が出る。

「何よ~慌てちゃって~可愛い~」

玲那は楽しそうに言うと、彰の身体をまじまじと見つめる。
細いとは思っていたが、予想以上にガリガリだった。
それに、身体中に無数の青痣。
今日は口元も切れて血が滲んでいる。

さっき帰ってきた時には気づかなかった。

「どうしたの!これって…」
「なっ…なんでもない!」

慌てる様に出て行くのを見送るとキッチンへと戻る。
玲那が風呂から出た時には食事を済ませたのか部屋に閉じこもって
しまっていた。

主人としてほって置けないと思うと部屋に堂々と侵入した。
布団に包まる様に横になっていた。

「彰くん、ちゃんと説明してくれる?」
「…」
「私は君の主人でしょ?言えない事なの?」
「…言いたくない」
「命令よ、話しなさい!話せないなら今すぐベランダにでなさい!」

もちろん冗談のつもりだった。
が、のっそりと起きるとベランダにでて蹲った。

「ちょっと、なんでよ?事情を言うだけでしょ?」
「…」

ただ黙っているだけで何もしなかった。

玲那も少しムキになるとそのまま鍵を閉めた。

「主人の言うこと聞かないなら、そこで反省してなさい!」
「…」

こんな事言いたかったわけじゃないのにと思うと蘭子に電話した。

「聞いてよ~今日ね、風呂中に入ったんだけどマジで逃げるって
 酷くない?聞いてる?蘭ちゃーん…」
『うん、聞こえてるよ?あのさ~玲那って伊波の事どう思ってる
 の?テニス部入るくらいだし女目当てのやつだって思ってたん 
 だけどさ~あれはちょっとね…』
「何よ?他の女に鼻の下で伸ばしてたって言うの?」
『違うわよ…動画あげるから見てみれば分かるわ』

そう言うと今日の部活後の映像を送った。
殴られても、部活をやめろと言われてもただじっと耐える姿に、
言葉を失った。

「何よ、これ!」
『なんでここまでされて辞めないのかしら?』
「それは…私が入れって言ったからだ…」
『ん?なに~?』
「私がテニス部に入れって言ったの…だって青春すら楽しめな
 そうだったんだもん」

辞めたいなんて、言えない原因を作ったのが玲那自身と分かる
とすぐに電話を切ってベランダにでた。

勢いよく開けると外はまだ冷たかった。

「何やってるのよ!早く入りなさいよ!」
「…」
「主人の命令よ!早く入りなさい。そうね、熱いコーヒーが飲
 みたいわ」

一緒に飲もうと言いづらくて命令してみる。
のっそりと彰が入ってくるとさっき風呂に入ったばかりなのに
身体が冷え切っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...