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デス・ゲーム7日目 双子合流・仲直り

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 夕陽が島を照らす。
 林の中を優笑とショウが走り抜ける。
 今日もまだ生きてる、そしてみんなで生きていくために全力を尽くすんだ……!

「この時間だ……もう此処らへんには誰もいないといいんだが……」

 林から抜け出そうとしたその時、人影が目の前に現れる。
 敵!?
 一瞬で全身に緊張が走る。

「優笑ちゃん……!」

「ゆ、優楽……?」

 優笑の前に現れたのは優楽とスズメだった。

「まさか今日、会えるって思ってなかったよ。無事で良かった」

 優楽は優しく微笑む。
 無事なのは当然だ……無事なのは、優楽が自分へのご褒美を優笑の無事と引き換えたからだ。

「優楽……」

 昨日、バーサーカーを倒してくれた優楽に感情的に責めて距離を置いてしまった。
 ポロポロと優笑の頬に涙が伝う。

「優笑ちゃん……!?」

「優楽っ……ごめんね……!」

 優笑は優楽を抱きしめ、何度も謝る。

「ごめんね……ごめんね、ごめんなさい。私が悪かったの……」

 抱きしめられた優楽は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに頬を染めて優笑を抱きしめる。

「優笑ちゃん……優笑ちゃんいいんだよ……優笑ちゃんが悪い事なんかなんにもないよ」

「うっ……ごめんね……何もできないのに……私が役立たずだっただけなのに……」

「そんな事ないよ……優笑ちゃんは私が守るから……ね」

 ぎゅうっと言葉の最後に優楽の腕に力がこもる。
 双子が泣いて抱きしめ合うのを見て、ショウが安心したように息を吐いた。

「灰岡先輩も一緒だったんですね。でも日が暮れるこんな時間に寮の反対方向へ走って何をしてるんですか?」

「相賀も天乃妹と一緒だったのか。小屋に来なかったんだな。何をしていた?」

 質問に質問で返されたが、スズメは顔色を変えずに答える。

「優楽と生き残れるように行動してただけですよ。さっき襲われましたけど優楽が倒してくれました」

 それを聞いた優笑が驚く。

「だ、大丈夫だったの!?」

「うん、大丈夫だよ」

 抱きしめ合っていたのを離れて、優笑は優楽の顔を両手で包んだ。

「怪我してない?」
 
「えへへ、大丈夫」

「……天乃妹に襲いかかるなんて……真莉愛か蝶子か?」

「いえ、知らない子でしたよ……灰岡さん、優笑ちゃんと一緒にいてくれてありがとうございました。もう暗くなりますし……此処からは私が優笑ちゃんを守りますからスズメと一緒に寮へ戻ってもいいですよ」

 優笑に対する言葉より、少し冷めたような口調で優楽は言う。

「優楽、私は一緒に行くから。で? どこへ行く予定だったんです?」

「僕も帰るつもりはない……」

「優楽、スズメちゃん。私はこれを見ることができるパソコンが遊園地にないか探しに行くところだったの」

 優笑がUSBメモリーを二人に見せた。

「そんなものどこに?」

「図書館よ」

「そんなのまだあったんだ? じゃあ四人で行く?」

「うん」

 四人で頷き、林を抜け遊園地を目指す。
 昨日の今日だ。
 あのバーサーカーの事を思い出すと、まだ辛くなる。
 
「優笑ちゃん」

「うん、大丈夫」

 優楽と握った手に力を込めたので、気付かれたかもしれない。

「私が一人で行ってこようか?」

「私が見ないと意味がないし、大丈夫」

 遊園地の門をくぐった。

 壊れたベンチや、自動販売機がそのままだった。
 壊れた注射器、そしていちごみるくやジュースのシミがアスファルトを染めたままだった。

「いちごみるく入ってた銀パック、どっかに保管しておけば良かったかな」

「いちごみるくだよぉ? 腐りそう」

 優楽の言葉にスズメがうえ~っとした顔をして答える。
 いつの間にか、この二人はすごく仲良くなっていたんだな、と優笑は思った。

「多分あっちだな。小屋があった」

「はい」

 でも、それは自分も同じかもしれない。
 ショウと色々な話をしたからだろうか? 自然に会話ができる。
 誘拐事件があってから、ずっと優楽と二人で手を繋いで生きてきた。
 クラスは分かれても朝も昼も夜もずっと……。

 だから灰岡ショウが、優笑には初めての『親しい友人』かもしれない。
 いや、友人なんて言ってはショウに失礼か……。

 その間に優楽が入る。

「手分けしましょう。あっちの小屋は清掃用具の部屋かも。ゲームセンターのところも事務所になってたかもしれないですよね」

「確かにな……じゃあ相賀行くか。無ければそっちに行くよ」

「はぁ、じゃあね」

 優楽の言葉にショウとスズメは行ってしまった。
 あ……と思った優笑に優楽がにっこり笑う。

「行こう~優笑ちゃん」

「うん……」

 二人で手を握り、歩く。
 もう夕陽は沈んでしまった。

「優笑ちゃん……灰岡さんと仲良いんだね?」

「……朝、小屋で一人だったから……心配してくれただけだよ」

「ふーん? それだけ?」

「それだけだよ?」

「私より特別とかやめてよ~?」

 キャハハハ! と優楽が笑ったので、なんだか優笑はホッとした。
 変に空気が緊張したように感じたから……。

「もう、どうしたの? いきなり」
 
 やだ……どうして?
 優楽との間に緊張なんて……こんな風に思う自分にこそ違和感を覚える。
 でも優楽が……。
 
「あはは! だって、やっぱ灰岡さんカッコいいからさ~、見た目王子だしね」

「見た目とかじゃ……」

「え? なに?」

「う、ううん。見た目は関係なく、優しい人だから」

 そう言うと、優楽が下を向く。

「ゆ、優楽?」

「私より……優笑ちゃんに優しいの?」

 ドキン、ズキン、ギクリ、なんだろう。
 何か心臓が痛んだ。

 ……優楽……可愛い妹……。

「……ま、まさか! 優楽だけだよ……私なんかにこんなに優しくしてくれるのは……ありがとう」

「……うん……」

 ゲームセンターの奥に確かに関係者以外立入禁止の部屋があった。
 ドアノブを回しても開かない。
 
「もう壊す!」

 優楽はまるで太刀のような大きな刀を手にすると、ドアを一刀両断した。

「……優楽……」

 今日も優楽を襲ってきた少女を仕方なく捕食したという優楽。
 ……レベル1の少女が……一番強い優楽にわざわざ襲いかかってくる……?
 違和感を無理やり頭から追い出した。
 
「すごい! ありがとう」

 優笑が微笑むと優楽はにっこりピースをした。
 
 
 
 
 
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