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ダンジュウロウ

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「この夜を止めてよ」

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  いつからだろう・・・


  彼の笑顔にどことなく悲しみがともるようになったのは。


  いいえ・・・そうじゃない


  私自身がそう感じてしまうだけ。


  きっとそれは私の心の在り方が変わってしまったからなのだろう。


  彼の腕に抱かれ、優しく髪を撫でられながら私はそんな想いを打ち消すように、その温もりや安らぎを胸に刻んだ・・・


           1

  私が彼に出会ったのは2年前。

  街の風が例年よりもずっと冷たい、冬のさなかだった。

  私は大学卒業後、アパレルブランドのマーケティング部門に入社した。

  もともと才能と呼べる様な物が自分にはない事は知っていたつもりだったけれども、仕事を始めてさらにそれを痛感する事になった。

  来る日も来る日も目の前の仕事に追われ、ただ時間だけがあっという間に過ぎていった。

  ようやく自分が思う様に仕事をコントロール出来るようになり、気持ちに余裕が持てるようになった頃には、周りの友人達は家庭に入り、子供を設け絵に書いた様な女性としての幸せな時間を過ごしていた。

  私は恋愛をしてこなかった訳ではないのだけれど、仕事を忘れるほど・・・忘れられる程夢中になるような恋が無かった。

  それは特別な人に出会わなかったからなのか、私自身にその気がなかったからなのか・・・今でもよくわからない、ただそれだけ目の前の事に必死だったのだろう。

  私は別に仕事が好きな訳じゃない。

  ただ自分がやらなければならない事を、誠実にやってきたつもりで、別に今流行りの自立した女性像みたいなものを明確に目指してきた訳ではなかったのだけれども・・・

  周りの私を見る目はまさにそれであった。

  そんな時に私は彼と出会った。

  新しい商品のチームに、それも割と社運をかけたような重要なチームに抜擢されたのだ。

  彼はそのチームの責任者で私はその補佐役。

  彼の最初の印象は「不思議な人」だった。

  彼は常に冷静でいて視野も広く、判断や指示の仕方、その内容も的確だった。

  きっと誰もが、いわゆる仕事ができる人・・・って感じを受けると思うのだけれども、そういう人特有の鋭さを全く感じなかった。

  私が常に、いわゆる「仕事ができる」ってタイプの人に感じるのは劣等感から来るものなのか言葉では上手く言えないけれども、ある種の威圧感のようなものを感じてしまう。

  これはコミニュケーションの姿勢とか言葉遣いとか、仕事の進め方や指示の仕方、そういった直接的な物ではなくて、内面から溢れ出る独特な物の様な気がする。

  しかし不思議と彼からはそういった類の物は全く感じなかった。

  それは彼の他人との距離感でそう感じたのかもしれない。

  近過ぎず、遠過ぎず、そういった仕事上の丁度いい距離感というのは人それぞれにあると思う。

  彼はそれが上手だった、そういう話では無い。

  私は役職上、彼の1番近くで仕事をしていて、彼と1番接する機会が多かった。

  仕事上の相談を受ける事も時にはあったし無論私が相談する事もたくさんあった。

  彼は熱くなる事も無ければ、冷たい訳でもない。

  誰と接する時も同じリズムで同じ様に応対する。

  コミニュケーションというのは取れば取るほど相手との形が出来上がって行くものだと思う。

  その過程で相手を知り、お互いが望む形というかお互いが楽な、心地いい形に落ち着いて行くものだと思う。

  彼には全くと言っていい程そういう形の進展が感じられなかった。

  よそよそしいとか他人行儀とか、そういうニュアンスではないのだ。

  彼はまるでAIアシスタントの様な、不変的なものがあって、ずっとそこにいるのだ。

   近づきもしなければ離れもしない、初めて会った時からずっと同じ場所にいる。

   普通だったらこんな印象を受けたら不快感を感じてしまうだろう。

  しかしながらそれを私は不快とは感じなかった。

  ただとても不思議な感じがしたのだ。



                   2  

  それから数ヶ月私は彼の部下として、彼の近くで過ごした。

  私達のチームは想定していた成果の半分も達成出来ずに苦しんでいた。

  無論1番苦しんでいたのは彼だろう、それでも彼はそういった苦しみを態度に出すことは無く、明るく振る舞いチームを鼓舞していた。

  1度蔓延したネガティブな空気というのはそう簡単に払拭出来ない。

  私もそういった空気感を少しでも変えようと、自分に出来る限りの事をやった。

  かけた時間や、

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