【中編小説】死ねないバンドマン

吉岡有隆

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【中編小説】死ねないバンドマン 202X年X月X日 -開演前

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 俺はメジャーデビュー用の衣装に身を包み広いライブ会場の壇上で、手前に置かれたマイクを前にしていた。客席の奥の壁に、巨大なモニターがあるのが見える。さらに横の壁にはスポンサーのロゴが大きくライトの反射を受けて光っている。

 俺はドラムとベースのメンバーを背後に、大勢の観客の前でエレキギターをかき鳴らしながら、心だけは壇上の上にないまま考えた。

 ……俺が間違わなければ、あいつも今頃、元気に歌っていただろうか。俺もあいつの横でギターを弾いて笑っていただろうか。

 そんな事を考えても、もう昔には戻れない。俺はふと笑った。

 自分のギターソロの演奏が終わり、目の前に立ててあるマイクに向かい新しい歌詞を口ずさみながら、俺はもう何もかもが嫌になった。こんな俺も、こんな歌詞に共感する浅い連中も、こんな曲を売ろうとする事務所も。全部が嫌になった。

 少し前までは売れないバンドだったのに、一曲でもネットの動画でバズれば他の曲も売れるだろうと近寄ってくるハイエナ共。

 ……俺はこんな曲を作りたかったわけじゃない。こんな歌詞は、俺の本当の作品じゃない。……いや、最初から俺の作品なんてどこにも存在しなかった。

 俺は上半身にかけていたギターのベルトを外し、頭を上げた。すると一瞬だけ爽快感に満ちた気持ちになった。

 ふと左横を見ると、ベースを演奏していた快斗が違和感に満ちた表情で俺を見て視線が合ったので、俺は快斗の驚いた表情を真顔で見返し、なんとなく軽く頷いた。

 俺は次の瞬間、マイクから一歩下がり、その場の床に持っていたギターを勢いよく叩きつけた。マイクがキーンという高い音を拾い、メンバーの演奏が止み、周囲が急にしんとなった。

 俺はそのままマイクを片手で掴み、淡々と呟いた。

「……この先は、俺の中にはありません。皆さんの前にもう俺は立てません。さようなら」

 何か言いかけるメンバーと裏からやってきたスタッフをかわし、俺は舞台裏に逃げ、そのままライブ会場から去った。

 もう二度と、こんな場所には立たないと思った。

 ……いや、最初から俺なんかが立って良い場所じゃなかった。
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