【外伝・完結】神獣の花嫁〜いざよいの契り〜

一茅苑呼

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❖ 弐 ❖

夢 現 ──ゆめうつつ──《一》

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尊臣の反応が、怖かった。

無礼者と罵られるか。
身の程知らずな者よと嘲笑を浴びせられるか。

いずれにせよ、可依はおもてを床板に伏したまま、身体を硬くし尊臣の言葉を待った。

「ほう……これは、予想外の結果だな」

かすかに笑う気配がして、これは後者かと可依が身を縮めたままでいると、顔を上げろとぞんざいな声がかかった。

「まさかとは思うが、お前、俺に情けを交わして欲しいのか?」

「お戯れをっ!」

相手がこの地を治める豪族の当主、ひいては大神社の主祭だということは、恥辱のあまり頭からすっかり抜け落ちていた。

反射的に叫んだ可依に対し、激昂げっこうしてもおかしくないはずの尊臣は、しかし最初の晩と同じように喉の奥で笑ってみせた。

「そうだ。お前のその反応が見たかっただけだ。
だが……そうか、つくづく俺は、神に刃向かう宿命さだめをもつようだな」

「え……」

「俺がまがつ神を滅する儀を執り行ったのは知っているだろう?」

「もちろん、存じております」

「ならば、神獣かみに刃を突き立てたことも知っているはずだ」

禍つ神とされた神獣・白虎はくこ神逐かむやらいのつるぎで滅ぼし、新たに再生させた儀式──というのが、下総ノ国の民の認識だ。

けれども実際は、震災という『一大事』を禍つ神の仕業と位置づけ神獣を滅し、人心を落ち着かせようとしただけ、と。
一部の官の間で噂されたと伝え聞く。
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