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参 まやかしの花器
つぐないと負い目【三】
しおりを挟む「尊征様。『赤の姫君』からの仰せで、こちらにお連れいたしましたが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「……ああ、構わない。通せ」
廊下からかかった侍女の声に、残った涙を拭いとりながら上半身を起こした実緒を見届け、虎太郎は応じる。
ややして開いた障子の向こう、ひざまずく侍女の後ろに瞳子の姿があった。
室内の湿った空気を感じてか、瞳子の顔が気まずそうにくもる。
「お邪魔だったら、私、出直すけど?」
「──まぁ姫様、そんな、お気になさらずに。どうぞごゆっくり、旦那様とお語らいくださりませ。
ただいま、お茶をお持ちいたしますわね」
スッと背筋を伸ばし、立ち上がった実緒の口からは、賓客をもてなすための女主人としての矜持がうかがえた。
……もっとも、虎太郎にしてみれば、先程の彼女とのやりとりから、間違いなく意趣返しであろうことは想像がつくが。
そんな二人の関係性をまるで知らぬだろう瞳子は、立ち去りかけの実緒にあわてたように声をかける。
「あのっ……どうぞ、お構いなく」
「そうは参りませぬわ。旦那様の大切なお客様ですもの。自慢の茶菓子もございますし、何より」
言って、実緒がチラリと虎太郎を見やった。
「これも妻の、務めでございますから」
眼の奥に宿る、積年の恨み。虎太郎はそれを甘んじて受け止めた。
(うん……全部、オレが悪い……)
そう反省しつつも、ますます瞳子との間に目には見えない亀裂が入ってしまったことを感じ、苦い思いが先に立つ。だが──。
(それもこれも、オレのほうの問題で、巻き込まれた瞳子には関係のない話だ)
虎太郎は、自身の瞳子に対する負い目や実緒へのつぐないの気持ちを横に置いた。障子脇で立ったままの瞳子に、笑いかける。
「俺も、お前の所へ行こうと思っていたところだ。いろいろ説明が後回しになって、すまなかった。
少し……話が長くなるが、聞いてくれるか?」
──いままで、誰にも話したことのない想いも含めて、全部。
虎太郎は、初めて自らが欲した“花嫁”という存在を前に、口をひらく。
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