【本編】神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

一茅苑呼

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伍 いにしえの誓約【後】

赤宝珠と新たな眷属【六】

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 集落から離れた人気のない森へ入り、そろそろ双真の『力』を使い屋敷に戻れるだろう頃合い。

 瞳子は、隣を行く双真を見上げて問う。

「……さっきの、やっぱりなんかあるの?」

 陽はとうに暮れ、木々を透かした夜空には、大きな月が浮かんでいた。

 ああ、と、双真がうなずく。

「正式には、イチに“眷属”としての名付けの儀式を頼んでからとなるが──じん

 双真の声に反応するように、ボッと浮かび上がったのは、火の玉。手鞠てまりほどの大きさのそれが、瞳子の目前で宙をすべって弧を描く。

(えっ……)

 炎の明るさに慣れた目が錯覚を起こすような、暗闇が訪れた。消えた、火の玉。

 ゆらり、と、闇が動く。

「そっ……」
「……はつに、お目にかかる。……かた様」

 思わず、双真の背に隠れかけた瞳子は、寸前でその漆黒の存在に目を奪われる。

(嘘でしょ……!)

 小山のような、体躯たいく。一瞬、熊かと見まがうほどの──おそらく猫、だった。

 真っ黒かと思ったが、人のようにまとったあわせは上衣を腰に落としているため、首周りから胸の辺りまで白いのが分かる。

 それがツキノワグマのようで、さらに『熊感』を見る者に与えるが──。

「……瞳子?」

 心配そうに双真からかけられた声に、瞳子はあわてて首を横に振ってみせる。

「だ、大丈夫。ちょっと驚いただけ」

「……そうか。刃は、オレの古なじみで妙子の兄貴だ」

「あ、妙子さんのお兄さんなんだ。それで、ちょっと見覚えがある感じがしたのかな?」

「……そうだな。
 先ほどの村人らが熊と見間違えたのは、遠くからオレ達を見ていた刃の姿のようだ。
 ……まぁ、この身体だからな」

 苦笑いで双真が言い添え、瞳子も疑う余地もなく納得した。

 衝撃と動揺が過ぎ去り、瞳子は改めて双真から紹介された猫の獣人だという刃に対し、頭を下げた。

「ええと、瞳子です。刃さん、よろしくお願いします」

「……は。……武骨者であるゆえ、ひらにご容赦を」

 瞳子の言葉に、ぎこちなく猫の頭が伏せられる。

 チリン、と、鈴の音がして、見れば長い尻尾の先のほうに小さな鈴がついていた。

(……ヤダ、可愛い……!)

 低い声でボソボソと話すところをみると、あまり対話が得意でないのかもしれない。

 妙子は快活な印象だが、こちらはどちらかというと寡黙なようだ。

 なぜか先ほどから視線が合わないのも、瞳子が嫌われてる……からではなく、朴訥ぼくとつな性質なのだと思いたい。

(うん。少しずつでもいいから、話かけてみよう)

 瞳子は、片ひざをついたままの新たな“眷属”を見ながら、そんなことを思っていた。



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