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問答リブート
しおりを挟む或声: お前は創る時には、必ず何処かから何かを盗んだ。
僕: そうしなければ、かつての僕はただ黙す事しか出来なかっただろう。しかし僕は盗んだ事を忘れた事は一度もない。
或声: 心配せずとも、これに関して俺はお前を糾弾するつもりはない。模倣は必ずしも悪ではないからだ。
僕: いいや、模倣は悪だ。それが完璧な模倣でない限りは。よって僕は悪人だ。
或声: お前の同業者の中には、盗んだ事にすら気づかない者も大勢いるのだ。
僕:ああ、僕は彼らを羨ましく思う夜もある。
或声: 日常で感じる安っぽい感情など詩にしたくないのだろう?
僕: そうだ。だが安っぽいのは僕の感情か?それとも僕の表現か?
或声: お前が心に飼っていた鳥はかつて他の誰のものよりも貧弱でみすぼらしく、滑稽だったが、今では他に劣らぬほど立派な嘴と鉤爪と尾を携えている。
僕: だが僕は嘴を手に入れる為に道化を利用し、鉤爪を鋭くする為に悪人達と関わりを持ち、尾を生やす為に他より少しでも多くの知識を掻き集めようとした。そしてそうまでしても僕は屈強な鷹や、鮮やかなカワセミになることができなかった。
或声: お前はそうやって卑屈になる事で成長してきた。狡猾な人間だ。
僕: 狡猾でない人間がこの世にいるとすればそれは赤ん坊だけだ。
或声:お前は本当は小説家になるつもりなどなかったはずだ。
僕:その通りだ。僕は本屋へと一歩足を踏み入れた時、もううんざりしていた。
或声: ではお前はお前をどうするつもりなのだ。
僕: それは僕の決められる事ではない。環境と運命が決める事だ。明日もし腹を満たす事ができれば僕は詩を作るだろう。満たせなければ、ただ眠るだろう。僕にはわからない。
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