現代詩集 電脳

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抽象世界の「雨」というシニフィエ

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抽象世界の「雨」というシニフィエ
それを「雨」と言わずに表現する方法を考え続けている詩人がいる

(ハングドマンが二回出た後、ツバメが僕の周りを三周回った。)

抽象世界の「雨」というシニフィエ
それはエピグラムもアフォリズムもエスプリさえも無力化する感傷という大魚を飼っている

(遠くで大仏の哄笑が聞こえた。その響きに紛れて、誰かが鶏を絞め殺している。)

抽象世界の「雨」というシニフィエ
それは限りなく真実に近い嘘である
それに気づく者はいつも少数で、気づいたとしても何もできない

(抽象世界の雨というシニフィエに打たれながら、僕は祈った。この頭痛も、日に日に白く染まっていく髪も、迫り来る納税書類も、立派になっていく友人達への感情も、ひ弱な神経も孤独も、元恋人との切れない関係も、誰も僕の事を知らない理不尽も、悪人だらけの世の中も、見当たらない才能のありかも、懐かしい匂いも、喜びも悲しみも、全て言い訳にしかならないのでしょうか。結局僕は、つらい業を背負った少女を目の前にした時、黙ってうなだれるしかできない男なのです。詩文学の神様。どうかこの僕を、もう少しだけ、詩人でいさせてください。)

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