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争奪戦の行方

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 敵の弓兵部隊が半壊した。
 そしてそれを成した魔法に、恐れおののくクライン王国側の士気はがた落ちだ。
 歓声と悲鳴が聴こえてくる。

「ここが勝機だ! 皆の者! 奮戦しろ!」

 村長のベン=アルバーンが皆に叫んだ。
 それに呼応するかのように雄たけびを上げて敵を倒していく。

「敵の騎馬部隊が動き始めたな」

 敵側は騎馬百を動かして横合いから食い破ろうとしているのだろう。

「本当だわ。このままだと、こっちが踏み潰されるわね」

 その通りだ。どちらかから来るのか分からないが、止めなくては勝機はないだろう。

 騎馬部隊が走り出して、右側面に周り込もうとしてきた。

「アル! エイミー! 騎馬部隊を止めるぞ」
「了承」
「分かったわ!」

 右側面に周り込む。相手が周り込んで突っ込んでくるところに魔法を詠唱する。

土盾アースシールド六展開セットスペル発射シュート!」

 右側面に土の盾が六枚が壁となった。
 その土の盾に騎馬部隊は突撃して弾き飛ばされていった。

土盾アースシールド六展開セットスペル発射シュート!」

 何度も詠唱して、土の盾を複数枚展開。盾が壊されては馬が弾き飛んでいく光景が何度も見える。

土盾アースシールド六展開セットスペル発射シュート!」

 敵の騎馬が七割程になった所で、相手の騎馬は撤退した。

 前方で奮戦している村民とクライン王国との戦いも、こちらが優勢だ。
 次第に相手は撤退し始めた。
 
「大分削れたな。クライン王国側は三百程度と言った所か」

 騎馬が三十程、弓兵が五十に歩兵が二百二十か。

「そうね。こちらは七十程度。相手としては、たった百人に半壊寸前までやられた。という事になるから、星の欠片を手に入れられずに撤退なんて出来ないでしょうね」

 そうだろうな。兵士はほぼ半壊して、星の欠片を手に入れられませんでした。では、国に帰る事も出来ないだろう。相手はどんな犠牲を払ってでもこちらに攻めてくる。
 なんとかして、落としどころを探さないといけない。そうしないと、相手は納得できないだろうし、こちらも全滅するかもしれないのだ。

「村長に聴いて見るか」
「それが良いわ。村長に納得してもらわないと、こっちも全滅するしね」

 ということで、村長の所に向かった。

「村長。お話ししたい事が……」
「なんだ!? クリス殿!」

 村長は先の第一波での大勝にご機嫌な様子だ。

「相手は残り三百。ほぼ半壊したと言った所です。このままでは、相手の指揮官はたった百人にやられたとして国に帰る事が出来ないでしょう」
「ふむ。何が言いたい」
「相手は全力で攻めてくるでしょう。そうしたら、こちらは全滅してしまいます。ここは、落としどころを見つけましょう」

 村長は悔しそうに顔をしている。確かに、第一波には勝った。だが、それでも村の男が三十人も犠牲になったという事。このままだと、村の男がいなくなってしまう。この村が生き残ることが出来ない。

「落としどころとはどんな内容だ?」
「星の欠片を半分渡しましょう」
「なんだと! 我らのあれを渡すだと!」

 村長は憤慨している。だが、このままでは全滅するんだ。今が一番重要な場面なのだ。

「なにも、全部渡す訳ではないのです。相手も、星の欠片を手に入れてこい、と言われただけの者なはず。多少の星の欠片を手に入れられれば、納得して下がるでしょう」

 それでも村長は腕を組んで唸っている。簡単には首を縦に振ってはくれない。

「このままでは、男がいなくなってしまうのですよ。今が一番の落としどころ!」
「……だが、しかし……」

 何分か経った後、遂に村長は首を縦に振った。

「相分かった。村の存続が一番の事柄だ。それをあの鉱石に目を取られて全滅してしまうのは愚の骨頂だな」
「ありがとうございます! では、使者を出しましょう」
「いや、使者はクリス殿らが行ってくれ。言いだしっぺなのだ。そこまでしてくれてもいいであろう?」

 この場合の使者は死ぬ可能性も大いにあり得る。だけど、仕方ないよな。覚悟を決めなくてはいけないだろう。

「分かりました。行って参ります」
「うむ。頼んだぞ」


 そして、白旗を振りながら、クライン王国側の陣地に向かう事にした俺達。

「どうなるのかしら……」

 エイミーは少し顔が青い。危険が高いのが分かっているのだろう。

「どうとかしないと、俺達の未来は無いけどな」
「まぁ、そうなんだけど」

 
 クライン王国側の陣地に着いた。そこで、兵士に行く手を阻まれた。

「止まれ! 何者だ!」
「俺は村の使者だ! そちらの指揮官と話がしたい!」

 俺がそう言うと、兵士は使者が来たことを他の兵士に伝えて、後ろに走って行った。

「暫し、そこで待っていろ」
「分かった」


 それから、数分後に兵士が戻って来た。

「使者との面会を承諾する! こちらに付いて来たれ!」

 兵士がそういうので、陣地の最奥に向かって行く。
 もう、ここまできたら逃げられないな。
 逃げようとしても死を覚悟しないといけない。
 全く、なんて事態だ……。

 歩いていくと、天幕が張ってある場所に着いた。

「ここに指揮官殿がいらっしゃる。入れ」
「分かった」

 三人で天幕の中に入っていく。

「やぁ、よく来てくれたね」

 そういう男性は少し、顔が青くなっている三十代の男性だ。

「村の使者として参ったクリス=オールディスです」
「そうか。私はアラン=アンヴィルだ」
 
 エイミーとアルも挨拶をしてから本題に入る。

「して、何用でこちらに来たのかな?」
「アラン殿は今、窮地に立たされている」

 そう言うと、苦虫を嚙み潰したような顔をした。

「戦力はほぼ半壊し、まだ星の欠片を手に入れていない。このままでは、国に帰る事もできないのでしょう」
「……それで? 私を挑発しに来たのかな?」
「いえ、取引をしないかと」
「取引だと?」

 意外そうにこちらを眺めてくるアランさん。

「こちらも男が減っては、村の存続が危ぶまれます。なので、星の欠片を半分お渡しして、戦争を止めませんか?」

 その答えは予想していなかったのか驚いた顔をしている。

「恐らく、星の欠片を手に入れて来いとの命令で、量までは命令されてないはず。ならば、星の欠片を多少なりとも納めれば、国王も納得してくれるのでは?」
「う、……うむ。確かにどの程度の量を取って来いとは命令されていない。ならば、それで手を打つのもやぶさかではない」

 相手はかなりこちらの言葉に揺さぶられているようだ。

「では、それで手を打ちませんか?」
「分かった。それで手を打とう」

 よし、やったぞ。これで戦争を回避できる。

「じゃあ、直ぐにでも戦争を止めましょう。そして、星の欠片を乗せる荷台かなにかを持って来てください」
「わかった。用意しよう」
「では、あちらでお待ちしております」

 そう言って、一礼してから退出する。

「やったわね! クリス」
「ああ、これで戦争は終わったな」
「でも、私たちの分まであるのかしら?」

 あ、それは考えてなかったな。
 まぁ、大丈夫だろう。あれだけ大きい鉱石なのだ。
 失敗も加味して、サッカーボール代の大きさが貰えればこちらとしては問題無い。
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