上 下
7 / 128
第1章 混乱の春

第7話 勘違い

しおりを挟む
 目を開けて見えたのは、服を脱いでるジュアだった。
「ジュ、ジュア、何してっ……!? 俺たちにはまだ、そういうのは早いんじゃないか!?」
 俺は寝ていた体を起こして後退る。寝起きのせいか、声が裏返るが今はそんなこと気にしていられない。
「えっ、ちょ、わぁっ、や!!!」
 変な声を上げながらジュアも後退った。
「なんでこのタイミングで目を覚ますんですかっ! というかあっち向いてください!!」
 涙ぐみながらそう言われれば、あっちを向くしかない。男のさがというのを頑張って抑えながら。股間も押さえながら。
 眠かったから、反対を向くついでに寝転がり、うつ伏せになった。
「……まだ早いって、何を考えていたんですか」
「え?」
 思わず振り向く。
「こっち向かないでください!」
「ごめん」
 そのうち、最初あのときみたいに何かものを投げられそうだ。
「で、何を考えていたんですか」
 ジュアは先ほどと同じ質問をした。
「何って、えっと……行為?」
 オブラートに包んで言うとそうなるだろう。
「~~っ! この変態!!」
 行為という言葉で通じる女子もなかなか変態なんじゃないか? というツッコミはしない方が賢明だろうか。
「そんなことはしませんよ。私は、シャワーを浴びるために服を脱いでただけですっ」
 シャワー? そうか、同じ部屋に住む限り、シャワーというか入浴が喫緊きっきんの課題なのか。

 ちなみにこの寮には、バスタブがない。大浴場もないからゆったりと入浴できる機会はほとんどない。

 ――でも普通、入浴のためとはいえ、ほぼ初対面の男子の前で脱ぐか?
「寝てるから、脱いでも大丈夫かなと思って、ここで脱ぐことにしたんですが……ほんと、目を覚ますタイミング最悪ですね」
 鋭い声が俺の背中に刺さる。
 それを俺に言われても困る。俺は何をしているのかが気になっただけなのだから。
「そんなに見られたくなかったんなら、脱衣所で脱げばよかったじゃねぇか……そっちの方が確実だし、そもそも脱衣所って衣服を脱ぐための場所だし」
「狭かったんです!」
 確かに、部屋自体狭いしな。その影響で、脱衣所が意味を成さないくらい狭いのだろう。
「……はぁ。とりあえず、シャワー浴びてこいよ。俺はお前がシャワールームに入るまで顔上げねぇから。あ、でも下着は仕舞っててほしいが」
「い、いいんですか?」
「いいもなにも、そうしなきゃお前は怒るだろ。入浴しないってわけにもいかねぇだろうし」
 俺は1日2日入浴しない日が続いても我慢できるが、清潔というものにとことん気を配る女子には無理だろう。
 ほんと、女子って謎な生き物だ。
「ありがとう、ございます」
「礼なんていらねぇよ」
 顔を伏せたまま右手をあげ、軽く振る。
「絶対に見ないでくださいね!」
 そう念を押しながら、ジュアは服を脱いでるようだ。
 そして足音が俺の横を通り過ぎ、シャワールームの前まで行って止まった。ドアが開く音がし、すぐさま閉まる音がする。
 カチャッ。
 あっ、鍵まで閉められた。
 まぁいいか。女の子のシャワーを覗く趣味なんてねぇし。
 そうして俺は、ようやく顔を上げた。
しおりを挟む

処理中です...