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第2章 波乱の夏

第5話 魔法と糸と偵察作戦

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 俺たちが考え出し、そして実行した作戦は、こうだ。

 回復属性の5人は教室に籠り、それ以外の35人の中で魔力の少ない5人は校内の色んなところを偵察する。残りの30人はグラウンドの真ん中に陣取る。当然周りから攻撃を受けるだろうから、俺はその他クラスからの攻撃を防ぐ役回り。その間に、クラスメイトたちは偵察隊の5人の指示を聞いて、攻撃してきたやつを返り討ちにする。
 しかし、いくらこっちの数が多いとはいえ、他クラスのほぼ全員を敵に回すとなると、普通に対応していては魔力も直ぐに尽きる。だからその予防として、最初教室に集まった時に、体中に極細の糸をつけていたのだ。回復属性の人がその糸を通じて魔力を送り、俺以外のクラスメイトの魔力を回復するために。
 だが、この方法だと俺の魔力が回復できない。だから、俺は予めジュアが作っていた魔力回復薬を使って回復した。俺が教室を出る前に貰っていたのはその薬。本人曰く「この作戦のことは頭になかったんですが、修二が戦うなら魔力回復のために何か作らないと、と思いまして。それで、前に作り貯めておいたんです」だそうだ。準備万端だな。
 回復属性なら、自身の魔力も全快できるし、精神力もある程度回復できる。だが、浪費は避けようということで教室に籠ることになった。
 それから、ビデオ通話は気が散るからということで使わない方向に決まった。

 ――これが、俺たちが考案した作戦だった。
 名付けて、“魔法と糸と偵察作戦”。……ダサい。
 正直、よくあの短時間でこんな作戦を思いついたな、と思う。この作戦の大元は田増が考えたものだ。だが、作戦自体、ルールを知った上で考えないといけない。せっかく考えたのに、ルール説明を聞いたら違反でした、なんてこともあるからだ。また逆に、違反だと思ってた行動がOKなために、いい作戦だと思っていたものがダメになってしまった、というのも有り得る。
 つまり、田増はルール説明を聞きながら作戦を組み立てていたのだ。
 田増は、カリスマ性もあるし優しいし、頭の回転も速い。こんなのチートだ、チーターだっ。

 そんなこんなで1時間ほどが経ち、お昼時になった。
「不思議と、空腹感はないんだが……」
 クラスメイトの1人が言う。周りのやつもそれに同調した。俺も頷く。
『皆さんが空腹を感じる前に、私たちが魔力を送ってるからです』
 ジュアの声が聞こえた。
 なるほど。
 お腹が減ると、魔力も減る。逆に魔力が減ると、空腹状態になる。その前に魔力が供給されることで、お腹が減らないのだ。
「でもじゃあ、ジュアたちはどうしてんだ?」
 俺は問うた。
 自分の魔力も回復できるとはいえ、自分に対して使っても完全な魔力回復には至らない。つまり、少しずつ減り続ける。回復属性同士助け合っても、俺たちの分まで回復させる余裕はないはずだ。
『皆さんの分まで、お昼ご飯を食べてるんですよ』
 そういうことか……。
 今のジュアたちは、普段とは比べ物にならないほどの食欲を発揮してるんだろうな……。
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