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第3章 内乱の初秋

第4話 魔法会場

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 翌日、俺たち1組は朝7時に起き、準備をして8時に学校を出た。専用の競技場、通称“魔法会場パーティプレイス”に移動するためだ。パーティというのは魔法戦闘コンバットのことだろうが、これはパーティみたいな明るいもんじゃねぇだろうが……と、俺は呆れた。
 移動するのはクラス単位。1年1組は学校が用意したバスで最初に移動し、8時15分に魔法会場パーティプレイスに到着した。
 そこから他のクラスが順番に到着し、9時に開会式が行われた。そのままルール説明まで入り、俺たちはなんとか頭に叩き込んだ。上級生は過去の経験から分かっているようだ。

 1試合10分で、時間内に相手を戦闘不能状態にさせたら勝ち。ただし、殺すことは認められない。殺したり、致死レベルの魔法を展開した時点で失格。
 もし10分以内にどちらも戦闘不能状態にならなかったら、審判3人がよりダメージが少ないと判断した方を勝ちとする。
 戦闘部門では武器の持ち込みは禁止されていて、魔法と自分の肉体オンリーでの勝負となる。しかし、非戦闘部門では魔法による攻撃ができないので、剣・刀、弓矢のみ持ち込めるらしい。銃はダメなのか。
 また、戦うのは、周りより階段1段分ほど高くなっている白い“舞台”でのみ。“舞台”から落ちたら即失格とするらしい。だが、失格になるのは自分の体が“舞台”から落ちた場合だけであり、自分の体以外を使って会場全体を利用するのは構わない。

 これが、魔法戦闘コンバットのルールだった。
 第1試合は10時にスタートで、それに出る俺は選手控え室で気持ちを落ち着けていた。
「あああ……やっぱ緊張する……」
 机に突っ伏し、俺は自分でも情けないと感じる声を出す。
「そんなに気負わなくても、津熊くんなら勝てるよ」
 巴が俺を励ましてくれた。
「そうですよ。修二なら余裕ですっ」
 ジュアもフォローを入れてくれる。
「それ以前に、ルール違反をしねぇかが心配なんだよな……場外即失格って……」
 吹き飛ばされたら終わりじゃねぇか。
 コンコン。
 ノック音が響き、俺は誰だか分からないものの入室を許可した。
「元気づけにきたよ」
 そう言って顔を出したのは、田増だった。
「あんま要らねぇんだけど」
 くっついてる女子うるせぇし。
「緊張してるみたいだね。ちょうど、緊張をなくすおまじないを知ってるんだ」
 そう言い、田増は俺に近づく。そして、あろうことか、俺の頭を撫で始めた。隣で女子たちがキャー、と黄色い歓声をあげる。うるっさ。
「……おい、お前何してんだ」
 その手を払いけはしないものの、俺はぶっきらぼうに訊いた。
「人って、撫でると落ち着くって言うから」
 もはやおまじないじゃねぇ……。
「どう? 落ち着いた?」
「……まぁ、落ち着いたな」
 女子がうるさすぎて緊張してるどころじゃねぇってだけだが。
「ならよかった」
 頑張ってね、と田増は微笑みながら出て行った。
 田増やその取り巻きと入れ替わるようにして、教師が入ってきた。見知らぬ教師だった。
「津熊さん、時間です」
 俺はそれを聞き、「分かりました」と返答した後、席を立った。
「修二、頑張ってください!」
「津熊くん、頑張れ」
「我は、汝負くとは思ひたらぬぞ(我は、君が負けるとは思ってないよ)」
 ジュア、巴、月登が俺に声をかける。俺はそれに、明るく答えた。
「おう。朗報を期待してろ!」
 もう俺の心には緊張など一切なかった。あるのはただ、このイベントに対する期待だけである。
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