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第3章 内乱の初秋

第19話 役目

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「……まず退院しなきゃいけないでしょ」
「あっ」
 部屋に戻るべく身を起こそうとしたところで、俺は思い出した。俺は背中を刺されて入院中だったんだ。
「じ、自宅療養みたいな制度は……」
「もちろんない」
 ですよね。知ってた。
「はぁ……今の医療技術じゃ明後日には間に合うだろうが、それじゃダメなんだよな……」
 俺自身と、そしてジュアを守らなければいけないのだから。
「傷の回復を早めるような薬があればいいんだがなぁ」
「ジュアに頼るわけにもいかない、か……」
「ああ。あいつには魔法戦闘コンバットに専念してもらいたいからな」
「修二がこんな状態で、どうやって専念できるって言うんですか」
 え? と思う間もなく、ジュアがカーテンを開けて入ってきた。
「部屋に戻ったんじゃ……」
「ええ、一旦戻りましたよ。でもやはり心配で、先程また来たんです」
 ジュアはそう言い、こう続けた。
「……その傷を治さなかったら、修二のことが気がかりで、準決勝になんて集中できませんよ」
「たとえそれで、明日万全の状態で臨めなくても、いいのか?」
 俺が訊くと、彼女は「はい」と頷いた。
「目の前に助けられる人がいたら、助けたいじゃないですか。それが知り合いなら尚更」
 だからこの考えは変えません、とジュアは再度意志を表明した。
「……そうか。なら、お願いできるか?」
「はい」
 彼女はそう微笑んで、ジッパー付きの小さい袋を取り出した。
「それは……?」
「簡単に言えば、細胞分裂を促進させて皮膚をより多く作り、傷を早く治す塗り薬……ですかね。もっとも、効果はそんなにないので、完治には少し時間がかかるのですが」
「それでも、コレが少しでも回復するならしねぇよりは断然いいからな」
 俺はそう肯定し、入院着の上着を脱ぎ始めた。
「……私は邪魔?」
「いや、しばらくここにいた方がいい。1人で行動するのは危険だ」
 俺はそう言ってフィスティアを止めた。
「分かった」
「じゃあジュア、塗ってくれ」
「了解です」
 俺が後ろを向くと、ジュアはビニール袋の中身を指につけて俺の傷口に塗った。

 出血量は多かったものの、傷自体はどうやら浅かったようだ。何針か縫いはしたが、長期入院が必要な状態ではない、と医師から告げられた。
 ただ、魔法戦闘コンバット戦闘部門の決勝は棄権すること、1週間程度は入院することの2つを推奨されたが……もちろん俺はそれを拒んだ。

 ――そんなことを考えているうちに、薬を塗り終えたようだ。
「しばらくは服を着ない方がいいと思います。それから、明日の朝も塗った方がいいかと」
「分かった。明日もお願いしていいか?」
「もちろんいいですよ。それがルームメイトであり友達でもある私の役目ですから」
 それから俺は、フィスティアを見た。
「なあ、フィスティア」
 俺はある提案をした。
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