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第4章 狂乱の晩秋

第28話 どうすべきか

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「え?」
 魔法は発動されたはずだし、対象が私だったのも事実だろう。
 でもなんで、何の効果もないの?
 しかし、変化は鈴音さんに現れた。
「ライフィンを透明化した、か……」
 私を、透明化?
 なるほど、技の名前通りinvisible不可視ってわけか……。
「たとえどんな小細工をしようとも、私には意味がねぇんだよ。私は、最強だからな!」
 それから、ラグールと鈴音さんとの攻防が始まった。
 激しく攻撃が飛び交う中で、私は今自分はどう動くべきかを必死に考えていた。

 無意識化インビジブルによって、私の姿は鈴音さんには認識されていない。
 そんな中で私がやるべきことは何?
 私にできることはある?
 刹那、脳裏に最悪の結果が思い浮かんだ。
 何もできない私の真横で、緋色の液体が飛び散る――。

「ッ!」
 私はそこまで考えて、その思考を停止した。
 違う、今考えなきゃいけないことは別のことだ。
 私にできること……しなきゃいけないこと……どうするべきか……この状況における最善の策は……。

 私が考えている時間は、実際には1分もなかっただろう。けれど、私にとっては数分のように感じられた。この状況ではありがたいことだ。
 私は、その時に思いついた作戦を実行すべく、鈴音さんに近寄った。
 足を踏み出す度に、草が潰れ、サクサクという小気味のよい音が響く。が、私が作る足跡も音も影も気配も、何もかもが鈴音さんの認識からシャットアウトされているようで、彼女には伝わっている様子がない。
 当然その分ラグール魔力の消費は大きいだろう。彼女の魔力量の多寡たかに関わらず、手早く終わらせなければいけない。ASAPの作業は苦手なんだけどな……。
 鈴音さんに気づかれないと知った私は、走って彼女の背後に回る。
 そして、私はある言葉を呟くと同時に彼女に触れた。
「な……!?」
 鈴音さんは驚いたが、続けて何も言うことはなく、数秒触れるうちに彼女は倒れた。
認識形成ビジブル……対象、ジュア・ライフィン」
 ラグールはそう言うと、鈴音さんに次いで倒れてしまった。
「ラグール!」
 私は彼女に駆け寄り、刹那全快モーメントヒーリングを使った。
 気絶はしているけれど、これで多分大丈夫。
 多分、修二の方も、鈴音さんの情報遮断センスアウトの効果がなくなって、今は気絶しているか寝ているかのどちらかだろう。
「……ふぅ」
 私はため息をつく。
 体力や魔力としてはほぼ何もしていないけれど、精神力はかなり使った。
 そうして私がへたりこんでいる所へ、黒苦さんが拍手をしながら歩いてきた。
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