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第5章 濁乱の冬

第7話 いつも通り、押し問答

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「え……?」
「今まで散々、色んな人が修二に助けられてきました。
 ここ半年でも、SVMO事件やSVO事件、魔法対戦コンペティション魔法勝負マッチでの1組の勝利なんかに貢献してきました。ラグールの命も助けました。……私だって……」
 彼女は何か言いかけて、口ごもった。
「ん?」
「い、いえ、何でもありません」
 慌てて両手を振るジュア。
「と、とにかく!
 修二は今までたくさんの人を助けてきたんです。決して無力なんかじゃありませんよ。“無能”だとしても」
「ジュア……」
 俺と彼女は数秒間見つめあった。
「らしくないぞー」
「ふぇ!?」
 思いがけない発言に、ジュアは変な声を出した。
「ふはっ」
 俺は笑いを堪えきれずに吹き出す。
「なっ、何を……!」
 赤面しながら彼女は座布団を持ち上げた。
「おわっ、タンマタンマ! ちょっと待てよ!」
「待ちません!」
 投げつけられた。
「いでっ」
 そうは言ったものの、そんなに痛くもない。座布団だから当たり前か。
「……これでいつも通りだな」
「え? ――あ……」
 さっきまでの雰囲気はどこへやら、俺たちは完全にいつものテンションに戻っていた。
「ありがとうございます」
「どいたマンゴー」
「ふざけないでくださいっ」
 また座布団投げられた。
「……一応言っておくとな、ジュアも無力じゃねぇぞ」
 俺は、この話の締めとしてそう言った。
「え、それってどういう……」
「教えねぇよ」
「教えてくださいよー!」
「教えねえ!」
「さっき私色々話したじゃないですか!」
「あれはお前が自分から話し出したんだろうが!」
「酷いです、乙女の秘密を暴いて自分は話さないなんて!」
「だから俺は暴いたつもりはねぇって! あと何言っても話さねぇからな!」
 ――という感じで、しばらく俺とジュアとで押し問答が続いた。

 ――その頃、校長室の真下数十メートルの場所にて。
「あと3日だね」
 見張りのその言葉に、私――鈴音 響華は唇を噛んだ。
「あの人たちは、絶対に私を助けてくれる、です……!」
 そう反論した自分の声が意外と弱いのに気づいて、私は悲しくなった。
 私が信じなくてどうする、です?
 みんなが必死になって頑張ってくれているかもしれないのに、私はみんなを信じないなんて、そんなのダメ、です……。
「そう言い続けて1週間ぐらい経つけど?」
 彼は私を見てにやりと笑った。
「ッ……」
 私は手を握りしめた。両手首に繋がれている鎖が擦れる甲高い音がした。
「……俺は、人を苦しめるのはよくないって思ってる」
 彼は寝転がった。
「え……?」
 この人は突然何を言い出す、です?
「……実験の前日までにあんたの仲間が来なかったら、俺が脱走の手伝いをする。だから逃げな」
 脱走……。
「……折角の提案だけど、お断りする、です」
 私は首を振った。
「なんで?」
「逃げてもどうせそのうちまた捕まる、です。それなら、いっそ逃げずにこのまま実験に利用された方が、無駄な苦労がなくていい、です」
 私が諦めたように言うと、彼は私にぐいっと近づいて、じっと私の目を見た。
「本心は?」
「これが本心、です」
「嘘だね」
「な……」
 自信満々に言い切る彼に、私は驚かずにはいられなかった。
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