魔法陣はいらない

ヤクモ

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 渡された鍵はどこのものなのだろう。
 屋上を離れ、渋々保健室に逃げ込もうとしたが、生憎養護教諭は留守にしており鍵がかかっていた。
「まさかな」
 鍵穴にその鍵を差し込むとすんなりと開いた。
「は?」
 何で、理科の教師が保健室の鍵を持っているんだ?あの二人はもしかしていわゆる男女の仲なのか。そうだとして、何故私に鍵を渡すのか。もしや…。
「変態か」
 以前読んだ官能小説で行為を見られることに快感を覚える人が登場したが、あの根暗そうな教師もその口か。
「失礼しまーす」
 中に入り何気なく右を見ると、異様に髪が黒々とした女と目があった。
「ひっ」
  鏡に映る怪しげな輝きの瞳は、全てを受け入れ、同時に卑下しているかのようだ。
 吐き気を催し、その洗面所に吐き出す。朝から何も食べていないため出てくるのは少し泡立った淡い黄色の胃液だけだ。喉がヒリヒリと痛み、手で作った皿に水を溜める。
「お、来てたのか」
 がらりと扉が開いた音とともにしたその声に、口に含んだ水はうがいをしたあとそのまま喉を通ってしまった。
「また吐いたのか」
 口内の吐瀉物を飲み込んだ不快感を訴えるべく睨むが、養護教諭は気にもせず、設置された小型の冷蔵庫に手を伸ばす。
「ほら」
 渡された経口補水液を口にし、ようやく動悸もおさまった。
「鍵かかっていたよね」
「理科の教師が渡した」
「鍵を?」
「そうだ」
  すっと細められたその瞳は、どこか軽蔑のそれに似ている。私を見るあの目に。
「仲良いの?」
 私を立たせたまま自分だけ椅子に座ってそう言う。豊満な身体は椅子に悲鳴を上げさせるが、気にもせずに教諭は私を見据える。
「別に」
「それじゃあ」
 声が冷たくなった。
「なんで渡されたのかな」
「なんでって」
 私だって知りたい。なぜ私が責められなくてはいけないんだ。
 その目で、その声で、私を責める。攻める。あぁ。
「もう無理だ」
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