愛なんて言葉だけだ

ヤクモ

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「好きです。付き合ってください」

 なんてありきたりな台詞だろう。

 俺は目の前の女子のことなんてろくに知らない。同じクラスで、授業中に話す程度の関係だ。俺にとってはモブだけれども、この女子にとって俺は意外にも存在感があったのか。

 もし付き合ったとして、俺はこの子を好きになるのだろうか。正直ルックスは好みではない。地味で気が弱そうな子よりも、流行りの格好とかして女の子であろうとする子のほうが好きだ。もっとも好みのはなしであって、恋愛なんて幼稚園の初恋以来お目にかかっていない。
 断ると、きっとこうゆうタイプは泣き出すだろう。もしかすると物陰に友人がいて彼女を慰めでもするかもしれない。それでも、俺はこの女子と付き合いたいとは思わない。

「ごめん」

 たったそれだけ。
 泣かれる前にさっさと帰ろうと背を向けた。

「好きだからっ」

 普段小さな声の奴が無理して出した大きな声は、案外耳に響く。

「私はあなたが好きだから」

 だからなんなんだ、と。
 何となく今は聞かないほうがいい気がした。返事はせずに校門に向かう。
 あの女子の友人らしき人影はまったくなく、背後で嗚咽も聞こえなかった。振ったことに後悔はない。ただ、明日彼女は俺と顔を合わせた時どんな表情をするのだろうと気になった。
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