酸素ボンベ

ヤクモ

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出会い

2話

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 片思いは楽だ。廊下ですれ違うだけで胸がときめき、男女別での体育のときなんかは、思い人がゴールを決めた瞬間を見て友達に冷やかされたり。勝手に盛り上がっているのは楽だった。あの頃は相手が自分のことをどう思っているのかなんて気にもしなかった。触れたいとも思わなかった。あれは、恋ではあっても、愛はなかった。
 彼も、今までのように恋で終わると思っていた。それでも気になり、安っぽい罠を仕掛けた。引っかかりはしないだろうと、あまり期待はせずに。

「付き合ってみませんか?」
 さぁっ、全身の血が四肢に集中した。そう、緊張で頭が真っ白になる、あの感覚だ。
 ずっと待っていた言葉だ。彼と知り合い、何度も言葉をかわして罠をしかけ、やっとここまできた。答えないと。なんて言えばいい?
 嬉し泣きはしないけれど、目に見えない場所は、たしかに泣いていた。
「よろしくお願いします」
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