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この国の頂点

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 「私がお連れできるのはここまで。皆さま、この先の扉の前でお待ちください」

 「わかった。ここまでありがとう」


 兵士とは別れ、言われた扉の前に立つ。
 ここは王都にある城の中、つまり王の住む場所だ。


 「この扉の先に、王がいるんだろう? 俺まで緊張してきたよ」

 「ほう、お前も緊張するのかシェル。でもまぁ、この服装なら問題ない」


 リーダーはどれだけ服装を気にしてるのか。
 それよりも、もっと気にした方がいい所はたくさんある。


 「フィオーラ様一行とシルフィー様ですね。どうぞこの先へ」

 「い、いよいよだぞ。皆んな、失礼のないようにっ」


 誰よりも緊張しているリーダーが、声を裏返しにしながら言う。
 ……あんたが一番心配だ。

 開かれた扉の先は、広い空間になっている。
 天井の高さも、広く感じる理由だろう。
 その部屋の奥に、椅子に座る人の姿が。


 「王様、お伝えしていた、覗き魔退治に貢献した者達です」


 扉を開けた人がそう言うと、王は立ち上がり笑いながら。


 「そうかそうか、君たちがか! よく犯人を捕まえてくれた。非常に嬉しく思うぞ!」


 なんだかイメージと違った。
 もっとこう、厳格なものだと思っていたが。

 すると、緊張の塊であるリーダーが、王へ向けて。


 「いえ! 私たちは当然のことをしたまでです!」


 倒したのは私たちなんだけど。
 直角で礼をするリーダーに、王は笑いながら。


 「おいおい、顔を上げてくれ。今日は君たちの活躍に感謝したくて呼んだんだ。恐縮しないでくれ」

 「は、はぁ!」


 動きまでぎこちないリーダー。
 見てる私の方が恥ずかしくなってきた。


 「さて、報告によると、覗き魔逮捕に貢献した二人の女性というのは……君たちか」

 「私、フィオーラと隣にいるシルフィーです」


 私が名乗ると、王は満足そうに。


 「そうかそうか。王都近くでの犯行ということもあり、無事逮捕できてホッとしている。ご苦労だったな」

 「いえ、単に私が覗きを許せなかっただけですし、最初に気がついたのは、隣にいるシルフィーですから」


 私がいうと、シルフィーはオドオドしだす。
 それを見た王は笑って。


 「シルフィーよ、あなたは目立つことが苦手なようだ。呼んで悪かったな」

 「い、いえ……」

 「それからフィオーラ。犯人を凍らせての確保、実に見事だ。何か礼がしたいのだが、どうだろう」

 「私としては、お気持ちだけで十分なのですが」


 そう言うと、シェルがチラッとこっちを睨む。
 どうやら、褒美をもらえと言うことらしい。


 「気持ちだけではなぁ。そうだ、あの犯人にかけられていた、賞金を与えよう。本来はギルドにて管理されるものだが、特別だ」


 シェルが小さく喜んでいるのが見える。
 すると、扉を開けた人が思い出したかのように慌てて。


 「王様、まだ名乗られていないことをお忘れで」

 「む? そうか、そう言えばそうだな。今更だが、この国の王であるギルフォードだ。挨拶が遅れてしまったな」


 これまた豪快に笑いながらの自己紹介。
 王の名を知らなかった私たちも酷いもんだが。


 「それで賞金の方だが、元々の賞金に、少しの感謝で二十万イラはどうだろうか」


 この国の平均年収が十二万イラ。
 あの犯人にそこまでの賞金がかかっていたとも思えないし、ほとんどは王の気持ちだろう。


 「そ、そんなにいただいていいものか」


 リーダーがそう言うと。


 「構わんぞ。私はこの国で悪さをする人を許せんのだ。そのために協力してくれたんだ、これくらいはしてやらないとな」


 そう言われると断れない。
 リーダーも、それ以上言い返すことはないようだ。


 「ジェフよ、今から二十万イラをここへ」


 王がそう言うと、扉を開けた人が頷く。
 彼の名はどうやらジェフと言うらしい。


 「それで君たちは、これからどうするつもりだ」


 王の質問に、シェルが答える。


 「俺たちは、この国をまわりながらとある本を探してます」


 それに興味を持ったのか、王はさらに。


 「本とな? それはいったいどう言ったものだ」

 「はい、実は最近の魔法使いによる事件、共通点は本だそうで。何でも読めば魔法を使えるようになると」

 「そんな本がなぁ。そう言えば、今回の覗きの事件でも、犯人は同じことを言っていたそうだな。なるほど、確かに無視はできないか」


 そう言うと王は少し考え、私たちに向けて。


 「君たちはその本について探っているのだろう? 私も悪事を許せないタチだ。何かあれば協力しよう」



 王との話を終え、私たちは城の外へ。
 リーダーの持つケースには、しっかりと二十万イラが入っている。


 「一度にこんな大金を持ったことないぞ? 緊張で手が震えてる」

 「落ち着いてくれってリーダー。なんなら、俺が持ってあげようか?」


 シェルがそう言うと、リーダーの手はピタリと止まり。


 「お前に任せるくらいなら、俺の方がいいな。見ろ、震えも止まった」


 シェルに持たせる方が怖いのか。
 そんなやりとりを見ていた隣のシルフィーは、私たちに向けて。


 「あの、もしよければ私も皆さんの仲間にしていただけませんか」


 そう言ったのだった。
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