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12.解答がない気持ち
「今日はありがとう。途中まで送ってくよ」
午後七時。勉強に集中していたらすっかり遅くなってしまった。両親の帰宅が遅いこともあったが、二人で行う勉強は苦に感じなかったのだ。
いつもは帰宅後、ダラダラ漫画を読んだりゲームをしたり。課題を横目に遊んでばかりだが、今日はいつも以上に長く勉強できた。これも全部、三島くんのおかげだ。
「別にここでいい」
「ダメだよ。せめて、大通りまで。道、分からないでしょ?」
そう尋ねれば、三島くんは数秒考えたのちにこくりと頷いた。
スニーカーを引っ掛け、鍵を閉めて三島くんと共に外へ出る。すると、前方から一台の自転車が走ってきた。
「あれ、タカちゃん……?」
「ヒロ!」
孝晃が手を振る。だが、俺の横にいる三島くんを見て、素っ頓狂な声を上げた。
「なんでお前がいんだよ!!」
「うっせぇな。近所迷惑になんだろ」
ヤンキーが至極真っ当なことを指摘する姿に、プッと吹き出しそうになる。明らかに、三島くんの方が正しい。
「答えろ。なんで、ヒロと一緒にいんだよ。まさか……」
「俺が呼んだの。勉強、教えてもらおうかと思って」
「ヒロ、別に頭悪くねーじゃん」
「中学までの話だよ。それに夜鷹くん、すごく頭がいいんだ」
「こんな奴が?」
頭空っぽそうなのに、と呟いた孝晃に、三島くんが睨みを利かせた。
「随分な言い草じゃねぇか、オイ」
「ヤンキーが勉強できるとか、あり得ないでしょ」
「ヒロから聞いたぜ? お前、バカなんだってな」
「バカじゃねぇ! ちょっとスポーツの方に能力割いてるだけだ」
始まった。俺を置いてきぼりに喧嘩はヒートアップだ。
ついには自転車を乗り捨てて、孝晃が三島くんの胸ぐらを掴んだ。
「バカにすんなよ。勉強は俺とヒロでやる」
「誘われてねぇだろ、お前は」
「ヒロ~! 俺と勉強してくれるよな?」
孝晃にぐいっと体を引っ張られ、肩を組まれる。お前なら断らないよな? という圧を感じて頷くも、すぐに体を逆方向に引っ張られた。三島くんとは身長差があるから、後ろからすっぽりと包まれる形で引き寄せられる。
「先に約束してるのは俺だし、これからも俺と勉強するよな? 絋」
「…………」
「絋?」
「う、うん。勉強するから、その、離してもらえると……」
整った顔で覗き込まれると居た堪れない。
彼は眉間に皺を寄せて、不機嫌オーラを出していなければイケメンな部類なのだ。綺麗な顔で迫られると緊張する。
っていうか、密着されるとドキドキする。
「わ、ワリィ!」
「……うん」
俺と三島くんの間に変な空気が流れる。それを見ていた孝晃が、なにこれ、と面白くなさそうに呟いた。
「俺のヒロだったのに……」
「なにか言った?」
「いーや、なんでも。でも俺は認めねぇし、そう簡単に渡さねぇからな……」
孝晃が乱暴に自転車を起こす。孝晃なりに納得したのか、それとも気が済んだのか、孝晃は帰るとだけ言って去ってしまった。
「なんだったんだ? アイツ」
「さぁ……?」
二人で首を傾げつつも、大通りを目指して歩いていく。
その後、微妙な空気になってしまったこともあって、ほとんど会話はなかった。別れ際になってようやく三島くんが、ここまでで大丈夫だと言った。
「また明日な」
「うん」
三島くんに手を振り、夜道に溶けていく彼の後ろ姿を見つめる。
さっきはどうして恥ずかしいと思ってしまったんだろう。孝晃に肩を抱かれたときはなんとも思わなかったのに。不思議なことに、三島くんに触れられると緊張と困惑に体が支配される。なのに、離れると名残惜しくも感じてしまう。
「……変なの」
自分のことなのに、自分でも分からない。
俺は、季節が移ろい変わっていくときの生ぬるい風を頬に受けながら、去り際に見た彼の後ろ姿を繰り返し思い出していた。
午後七時。勉強に集中していたらすっかり遅くなってしまった。両親の帰宅が遅いこともあったが、二人で行う勉強は苦に感じなかったのだ。
いつもは帰宅後、ダラダラ漫画を読んだりゲームをしたり。課題を横目に遊んでばかりだが、今日はいつも以上に長く勉強できた。これも全部、三島くんのおかげだ。
「別にここでいい」
「ダメだよ。せめて、大通りまで。道、分からないでしょ?」
そう尋ねれば、三島くんは数秒考えたのちにこくりと頷いた。
スニーカーを引っ掛け、鍵を閉めて三島くんと共に外へ出る。すると、前方から一台の自転車が走ってきた。
「あれ、タカちゃん……?」
「ヒロ!」
孝晃が手を振る。だが、俺の横にいる三島くんを見て、素っ頓狂な声を上げた。
「なんでお前がいんだよ!!」
「うっせぇな。近所迷惑になんだろ」
ヤンキーが至極真っ当なことを指摘する姿に、プッと吹き出しそうになる。明らかに、三島くんの方が正しい。
「答えろ。なんで、ヒロと一緒にいんだよ。まさか……」
「俺が呼んだの。勉強、教えてもらおうかと思って」
「ヒロ、別に頭悪くねーじゃん」
「中学までの話だよ。それに夜鷹くん、すごく頭がいいんだ」
「こんな奴が?」
頭空っぽそうなのに、と呟いた孝晃に、三島くんが睨みを利かせた。
「随分な言い草じゃねぇか、オイ」
「ヤンキーが勉強できるとか、あり得ないでしょ」
「ヒロから聞いたぜ? お前、バカなんだってな」
「バカじゃねぇ! ちょっとスポーツの方に能力割いてるだけだ」
始まった。俺を置いてきぼりに喧嘩はヒートアップだ。
ついには自転車を乗り捨てて、孝晃が三島くんの胸ぐらを掴んだ。
「バカにすんなよ。勉強は俺とヒロでやる」
「誘われてねぇだろ、お前は」
「ヒロ~! 俺と勉強してくれるよな?」
孝晃にぐいっと体を引っ張られ、肩を組まれる。お前なら断らないよな? という圧を感じて頷くも、すぐに体を逆方向に引っ張られた。三島くんとは身長差があるから、後ろからすっぽりと包まれる形で引き寄せられる。
「先に約束してるのは俺だし、これからも俺と勉強するよな? 絋」
「…………」
「絋?」
「う、うん。勉強するから、その、離してもらえると……」
整った顔で覗き込まれると居た堪れない。
彼は眉間に皺を寄せて、不機嫌オーラを出していなければイケメンな部類なのだ。綺麗な顔で迫られると緊張する。
っていうか、密着されるとドキドキする。
「わ、ワリィ!」
「……うん」
俺と三島くんの間に変な空気が流れる。それを見ていた孝晃が、なにこれ、と面白くなさそうに呟いた。
「俺のヒロだったのに……」
「なにか言った?」
「いーや、なんでも。でも俺は認めねぇし、そう簡単に渡さねぇからな……」
孝晃が乱暴に自転車を起こす。孝晃なりに納得したのか、それとも気が済んだのか、孝晃は帰るとだけ言って去ってしまった。
「なんだったんだ? アイツ」
「さぁ……?」
二人で首を傾げつつも、大通りを目指して歩いていく。
その後、微妙な空気になってしまったこともあって、ほとんど会話はなかった。別れ際になってようやく三島くんが、ここまでで大丈夫だと言った。
「また明日な」
「うん」
三島くんに手を振り、夜道に溶けていく彼の後ろ姿を見つめる。
さっきはどうして恥ずかしいと思ってしまったんだろう。孝晃に肩を抱かれたときはなんとも思わなかったのに。不思議なことに、三島くんに触れられると緊張と困惑に体が支配される。なのに、離れると名残惜しくも感じてしまう。
「……変なの」
自分のことなのに、自分でも分からない。
俺は、季節が移ろい変わっていくときの生ぬるい風を頬に受けながら、去り際に見た彼の後ろ姿を繰り返し思い出していた。
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