王家の影である美貌の婚約者と婚姻は無理!

iBuKi

文字の大きさ
2 / 80

02話 クリスティアン・ローランド・ノヴァーク ①

しおりを挟む


 クリスティアンが令嬢達から凄まじい程に人気を得ているのは、何も神に愛されたような絶世の美貌だけが理由ではない。

 勿論、あの滴る色気溢れた容貌ひとつで、今日廃嫡されて放り出されたとしても、何十人(何百人?)の令嬢や夫人方に唸るほど貢がせて、毎日仕事もせず愛玩されるペットのように何ひとつ金の心配の要らぬ贅沢で怠惰で肉欲に塗れた生活を生涯過ごせるであろう。

 もしかすると、今の仕事とさして変わらないかもしれない。
 仕事じゃない分、クリスティアンの興が乗らなければ、寝台に寝そべったまま好き勝手にさせてやるから自分でしろとほっておく事も出来るだろう。
 猫のように擦り寄って見せるが、気が乗らないなら寄り付きもしない。
 そんな自由な暮らしが出来そうな男である。

 ―――まぁそれはさておき。話を戻そう。

 貴族の頂点である公爵家嫡男という肩書きも、匂い立つ程の美貌と同等の価値があるだろう。
 王族に次ぐ地位と魔性の美貌。
 どんな女だってクリスティアンから一瞬の視線でも欲しがり、一言でもいいから声をかけて欲しくなる。


 王国に四つある公爵家のうち、二家の公爵家がクリスティアンと同じ年頃の嫡男がいた。
 地位と美貌を兼ね備えているのはクリスティアンだけではない。
 その二家の嫡男も、クリスティアンとはまた種類の違った美貌を持つ、魅力的な殿方なのである。

 王国の騎士団総長である父親を持つリンデンベルグ公爵家嫡男と、王国の宰相を父親に持つキースフィア公爵家嫡男。

 どちらの家も武と知の代表の家であり、血筋も素晴らしい。

 リンデンベルク公爵家は古くから騎士団総長を代々輩出している名家で、キースフィア公爵家も長い歴史において宰相を代々輩出している。

 公爵家の血筋だから選ばれている訳ではない事は、代々選ばれて来た者達が優秀故に選ばれたと証明している。

 そして、それぞれの家の今代の跡取りも優秀で将来が楽しみだと既に有名らしい。
 勿論、この二人は各家の当主や令嬢方に大人気だ。

 デビュタントの時、遠目ではあったが凄い人数の令嬢達がいくつも固まってる所があった、そこだけ人口密度がおかしかったので目立っていた。
 恐らく、そのいくつかの塊の中心にはこの二人も居たのだろう。

 勿論、クリスティアンも。
 きっと集まる令嬢は頭一つ飛び抜けて多かったとは思うが。

 クリスティアンがこの二人よりも飛び抜けて人気がある理由は――――

 公爵家の中で飛び抜けて莫大な資産があるという事。
 皆、お金大好きだもんね? って所である。

 お金はダレもカレも大好きだけれど、多すぎた金は身を滅ぼす。
 お金関係では命まで取られる事だってあるのだから、怖すぎる。

 …話を戻そう。

 ノヴァーク公爵家は古くから続く由緒ある大名家であり、かなり広大な領地を所有している。

 広大な領地を隅々まで管理し運営して行く事が驚く程に巧みで、所領地はどれもが特色を活かし豊かに繁栄し続けている国内トップの資産家である。
 その上、国内は言うに及ばず国外にも支店をいくつも持つ大商会の経営も手がけている、正にやり手の大貴族であった。
 自国の有力貴族とも大商会を通じて繋がっており、様々な国とも商会を通じて繋がりがある為、少しでも野心がある貴族はノヴァーク公爵家と繋がりを持ちたくて必至なのだ。

 そこまで堂々と手広くやっている公爵家は、出過ぎる杭は打たれる法則になりそうだが、王家が手広く商売をする公爵家に介入してくる事は、今まで一度として無かった。

 国のパワーバランスを考える時、ここまで大きくなり過ぎた公爵家は、少しばかり力や財が削がれていてもおかしくない。
 だが、王家は何も言わない。
 そして、誰もその事に言及する事も、噂する事も、ない。
 ある意味特別視されているのだが、貴族から不満が噴出した事もない。

 それは王家が黙ってる以上、誰も彼も虎の尾を誰も踏みたくないというのもあるだろう。
 いわば触れたら爆発しそうな腫れ物状態なのである。
 腫れ物ではあっても、王族に何も言わせない事には特別さを感じる。
 その権力の匂いに令嬢達はますますクリスティアンに心酔するのだろう。


 大貴族というのは常に笑顔で全ての物事に対応する。
 その笑顔を保ちながら、冷徹で非道な判断を下し、黒を白に白を黒に変える。
 淡々と粛々と、目の前に立ち塞がった邪魔な存在を排除する。
 
 華やかなで麗しい見目と金の匂いに騙されるヤツは、気付かぬうちに養分にされる。
 華やかで美しく素晴らしい血筋を持つから大貴族になれる訳ではない。権力と金が集まるところに清廉潔白を求めてはいけない。

 王家が口を閉ざし、ノヴァーク公爵家の力を削ぐことも介入する事も一切してこなかったのは、誰も知らない語られない理由がある。

 その華麗な大貴族の姿は表の顔、その美しく華やかな顔を隠れ蓑にする事により、社交界の闇を縦横無尽に泳ぎ、そこから得る情報と人脈、そして強大な公爵家の力を使って、国を大国へと押し上げ続けているのだ。
 大掛かりな目立つ戦争はなくとも、水面下で様々な国の思惑が絡んだ情報が飛び交い、大金が動いているのだ。
 影として王家の背後を守りながら、国に利益を齎す。
 代々ノヴァーク公爵家が国の為に身命をかけて行ってきた事である。

 そこまで王家に尽くしているのだから、当然の事だが王家からは全幅の信頼を寄せられている。
 様々な任務に対応する為にも、公爵家は専属の騎士団を所有する事も許可されている。表向きは外交で他国に行く事が多く、国の騎士団をあちらこちらに連れていけない為としている。

 だが、総員が何人いるか真実は王家と公爵家しか知らないこと。
 表向きの人数は、本来の人数の三分の一に過ぎない。
 影として三分の二が常に情報を探り、王族を守り動いている。
 王族と公爵家で婚姻関係を結ばれる事はない。
 大きな力同士は結ばれる事も介入される切っ掛けも許されないのだ。

 王の影として代々仕えている事は、一握りの選ばれた人間しか知らぬ事。
 そうして代々王の影・懐刀として続いてきたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

処理中です...