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14話 カイリの事情3
しおりを挟む「遺伝子?」
「"番の契り"を交わす時、オメガのホルモン線がある項を強く噛んで刺激して、オメガ・ホルモンの働きを活発にさせ、大量に分泌された身体に、アルファの体液を吸収させて、オメガの身体に"番"の遺伝子を登録して契りを交わす… このことはフユメは知っているよね?」
「あ、はい!」
勿論ですと、こくりっ… とうなずくフユメを見つめ、次にカイリは母親を見た。
「ええ、私も知っています」
フユメの母もうなずいた。
「別れた妻と初夜に"番の契り"を交わした後で、彼女のオメガ・ホルモンが、私の遺伝子を拒絶しショック状態に陥ったのです」
「それは…」
「激しいけいれんを起こし、白目を剥いて泡を吹き… 私は慌てて救急車を呼び、命の危機からは辛うじて回避しましたが、彼女と私の遺伝子の組み合わせを詳細に調べてみると、最悪の組み合わせだと判明してしまった」
「そんな話、聞いたことないわ?」
母が眉間にシワを寄せて、カイリに疑いの目を向ける。
「私自身もこの身で実際に体験しなければ、一生知らずにいたかも知れません… 人口の2割程度しかいない、オメガとアルファにしか無い症状で、その2割の中でも、何百人に1人というレアケースですから…」
「ああ! マッチング・アプリは最初に遺伝子の相性で選べるから… だからカイリさんは登録したの?」
「うん… 私の体液で元妻を殺しかけた経験から、慎重に相手を選びたいと思ったのさ」
普通に考えれば…
“運命の番” と呼ばれる、遺伝子の相性が最高に良い組み合わせもあれば、その逆があってもおかしくはない。
「う゛う゛―――んんっ…」
思わずフユメは唸り声を上げた。
「その時の診断書がありますから、お見せしましょうか?」
懐疑的なフユメの母に、カイリが提案すると…
「ええ、お願いします!」
「母さん! いい加減にしてよ、カイリさんに失礼過ぎるよ!」
母はその提案に乗り、フユメは怒りをあらわにした。
「私も若い時、今のアナタの様に… アルファを信じて弄ばれたことがあるから… 彼を恨んでるわけではないけれど… でも、大切な一人息子のことなのだから、私が慎重になるのは仕方ないでしょう?」
「・・・・・っ」
暗にフユメの実父のことを、母は言っているのだ。
「フユメ、私は構わないよ? むしろ、そういうことは始めにハッキリ言ってくれた方が良いんだ… 後からそんな話聞いてない、そんなつもりは無かったと、言い訳するような事態に陥って、醜態を見せる方がよほど面倒だからね」
「でも…」
心配そうにカイリを見つめるフユメ。
「なら、言い方を変えようか?」
声のトーンが一段低くなり、カイリの口調が急に皮肉っぽいものへと変化した。
「え?」
「私個人ではなく、神田家の名前に魅力を感じているような人間は、お母さんのように面倒でも、大切なことだからと、無礼を承知で私に確認を取るようなことは、絶対にしないんだよ?」
「・・・・・・」
カイリの声だけではなく、すっきりと切れ長の瞳も暗く澱み、フユメはほんの少し怯んだ。
「甘い笑顔を振りまいて、アナタのお望みのままにと、オメガの娘や息子を黙って差し出すんだ… その方がよほど怖いとは思わないか?」
「・・・・・・」
ゾゾゾッ… とフユメの背筋に寒気が走り…
思わずカイリに、こくりっ… とうなずいた。
つまりカイリは、フユメ自身も気に入ったが、フユメの母も気に入ったのだ。
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