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1話 婚約者と親友
しおりを挟むメアヴェール伯爵家の3男に生まれた僕は、ずっと待ち望んでいた王宮で開かれた社交デビューの舞踏会で、ぼうぜんと立ちつくした。
…なぜなら、僕の婚約者ケンプトン子爵家の長男アルファのマウリシオ様が、僕以外のオメガとファーストダンスを踊ろうとしているからだ。
「どういうことですか? マウリシオ様」
「ジェレミー… 『どういうこと』 …とは何のことだ? 具体的に何が言いたいかハッキリ言えよ」
「ですから、今夜の一番最初のダンスは、婚約者の僕と踊るのが常識だと思いますが?」
この人… ワザと僕を揶揄ってバカにする気だ! いくら政略結婚で僕への愛が無くても、最低限の礼儀ぐらいは守ってくれないと。
今夜社交デビューする僕を家まで迎えにきたところまでは良かったのに。 王宮についたとたん、僕のエスコートを放棄してどこかに消えてしまった。
ようやく姿を見つけたと思ったら… 僕の婚約者は、なぜか僕の親友の男性オメガをエスコートしていた。
「まったく… 何が常識だ! お前は本当にグズで頭が悪いな。 見てわからないか?」
「見てわかるから、僕はあなたに言っているんですよ?」
マウリシオ様が遊び好きで自堕落なのは知っているけれど… 政略的に結ばれる意味を間違えてない? まさか、わからないの?!
本当にわからないなら、あなたの方がグズなんだよ! 本当にアルファかよ?!
マウリシオ様はニヤニヤと笑いながら自分の隣に立つ、僕の親友のアスプレイ子爵家の令息、オメガのアルテュールの紅い唇を指でなでた。
「ふふふっ… マウリシオ様ったら!」
「なぁ、アルテュール… どうせならお前が婚約者なら良かったのに」
「そんな意地悪な言いかたしたら、ジェレミーがかわいそうだよ」
「お前は優しいな? こんなグズにまで慈悲の心を持つなんて」
「……っ」
屈辱に耐えながら、僕は両脇に下ろした手をギュッ… とにぎりしめた。
昨日、他のデビュタントたちと一緒に国王陛下に謁見して、今年デビューすると報告を済ませた。 僕の目の前で僕の婚約者とイチャつく親友だったアルテュールもいた。
そして今夜は……
王宮で開催されるこの舞踏会で僕は婚約者にエスコートされて、華々しく社交界にデビューするはずだった。
「なぜ、こんなことをするの…?」
自分でも平凡で地味だと思う顔だけど… 少しでも婚約者に気に入られようと、僕は今夜のためにたくさん工夫をこらして準備したのに!
お兄様たちに綺麗だと褒められた黒髪は、何年もかけて腰までのばし…
頭を動かすたびに黒髪がユラユラと揺れて華やかに見えるよう、後頭部の高い位置で1つにまとめて背中にたらした。
平凡な顔の青い瞳がクッキリと際立つよう、お母様が自分の化粧道具で、僕の目元に薄く化粧までしてくれた。
鏡で仕上がりを見た時は、自分でも今までで1番美しい姿だと誇らしく思ったぐらいだ。
それなのに………
「ねぇ、ジェレミー~ 実はねぇ~ 僕の『初めて』をマウリシオ様にお願いしたんだ」
「何だって?!」
ハッ… と僕は息をのみ、ニッコリと笑うアルテュールを睨んだ。
『初めて』…とは文字通り初めての性体験のことで、王国では社交デビューをしたオメガは貴族社会の慣例で、結婚前に初体験を済ませておく方が良いと言われている。
だからデビュタントたちが初めて参加する、この舞踏会の会場となっている王宮内には、 初体験に使えるよう客室が解放されていた。
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