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9話 大親友
しおりを挟む"私は英国で暮していた期間が長く、渡英直後は杉山君と同じ悩みを持っていました。
ソレはアルファだからでは無く、私が自分から行動しなかったから生じた孤独でした。
自分から相手に興味を示し、働きかけなければ、相手も自分に興味を示さないのです。
相手のプライバシーを尊重したいという気持ちと、その相手に拒絶されたら自分が傷つくという当たり前の思いが誰にでもあります。
君の前にいる誰かも、同じではないでしょうか?
ただし、『3万で抱かせろ』 という、愚か者は君の視界に入れる価値もありません。
ソレと君は1人ではないよ、私は君の友人として、このメールを送ります"
パチッパチッ、パチッパチッ、パチッパチッ、パチッパチッ…
何度も瞬きを繰り返し、マキはその文面が見間違いで無いコトを確認し…
ガガッガタタンッ!! と椅子を蹴倒しながら立ち上がり、マキは悲鳴を上げた。
「ううわあわぁぁぁっ――――――――!!!!」
その場でパタパタと足踏みをして、興奮を身体から発散しようとする。
パタパタパタパタ、パタパタパタパタ、パタパタパタパタ…
「どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう!!」
<相模さんが僕の友人だって!? この僕の友人だって!? 大学のスゴク偉い人なのに僕の友人だって!? ソレもアルファなのに、オメガの僕と友人だって――っ!?>
「うわわわわわわわわっ――――――っ!!!!」
<相模さんってどんな人なんだろう?! スゴク気になる! 会ってみたいなぁ!!>
マキの胸がスゴイ勢いで、ドキドキしていた。
「あ… あの、大丈夫?」
誰かに話し掛けられて、ハッ… と我に返り、マキは声がした背後に、視線を移した。
太縁の眼鏡を掛けた、どことなくオタクっぽいベータ男子学生が、心配そうにマキを見上げている。
「ゴ… ゴメンね、うるさくして! ちょっと興奮しちゃって…」
<うわっ!! 恥ずかしい! コレじゃあ変人にしか見えないよ!!>
あまりにも興奮しすぎて、マキは自分が学食にいたのを忘れていたのだ。
半径7メートル圏内の学生が、全員マキに注目している。
「…何か困っているの?」
内気そうな太縁眼鏡の彼に、モジモジと落ち着かない様子で、マキは話題(?)をフられ…
「う… うん」
<あ! この人僕を心配してくれてるんだ?>
ある意味、マキの常軌を逸した無意識の行動(働きかけ)が、目の前の内気そうな学生を釣り上げたのだ。
太縁眼鏡の彼は椅子の上で身体をクルリと90度回し、マキの話を聞く体勢を取る。
<わあぁぁぁっ!! 初対面なのに、本当にこの人、良い人だ!!>
今まで感じなかった感動が沸き起こり、マキは思わず涙ぐんだ。
「わわっ! 本当にどうしたの? ねぇ大丈夫?」
太縁眼鏡の彼は、慌てて立ち上がり、マキの腕をトントンと叩き、宥めようとする。
<いつもなら、知らない人に触れられたら、手を振り払うけど、この人は良い人だからスゴク嬉しいよぉぉ…>
ゲス野郎アルファに襲われて以来、マキは感情の起伏が激しくなり…
今までずっと、心の奥で我慢して来たモノが、簡単に我慢の結界を破り、溢れ出してくるのだ。
そしてマキはこの日、大親友の鯉山(こいやま)アラタ君に倣って、漫画・アニメ研究会に入った。
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