臆病オメガ、唇奪われ愛を知る

金剛@キット

文字の大きさ
19 / 44

17話 距離

しおりを挟む


 ベンチから離れ相模は距離をとる。


 自分から離れようとする相模に、マキは縋るような思いでジッと見つめ、心の中で言い募った。

<何で僕からそんなに離れてしまうの?! もうキスはしないの?! 僕はもっとしたい!! 今すぐ続きをして欲しい!!>

 少し前までの距離が恋しくて、カバンをベンチへ置いたまま、マキはヨロヨロと立ち上がり相模に近づこうとするが…


「あまり近づかないでくれ… 君のフェロモンが…」

 サッと手を上げて、相模はマキが自分に近づくのを制した。


「あ!」

 相模に夢中で…
 自分が発情仕掛けていたコトが、頭からすっぽり抜け落ちていた。

 急に恥ずかしくなって、自分の身体から、少しでもフェロモンが出ないように…
 自分で自分を抱き締めるように手を身体に回し、そのままベンチの前でマキは呆然と立ち尽くす。

<そうだったのか… エイジさんは僕のフェロモンの影響で、僕にキスしたんだ?! だって、会ってスグ発情の徴候が出て、困ったことになってたのを、何で忘れていたのだろう?>

 恥かしくて、惨めで、マキは本気で泣きたくなった。

「ごめんなさい…」

 ギュッ… と眉間に力を入れて、コレ以上恥を曝したくなくて、マキは涙が溢れ出さないように、必死で我慢する。


「謝るのは私の方だ… 君に悪いアルファの見本を見せてしまった!」

 顔を伏せ相模も、深く後悔している様子が、マキの胸を抉った。


「悪いアルファだなんて… 悪いのはフェロモンを抑えられない僕の方だし…」
<こんなコト… エイジさんに言わせたくないし、言われたくもない!!>


「違うんだマキ! 私が先に君を誘惑した、ソレだけ君が欲しかった!」

 マキの心中を察して、相模は宥めようとするが…


「エイジさん?!」
<今、何て言った? 僕の聞き間違い? エイジさんも、僕に興味があるというコト?>

 マキの顔に喜色が浮かぶが、相模は視線を逸らしていたせいでその顔を見ていなかった。


「だが、間違いだった… 途中で止められたのは奇跡だよ! また私は間違えを犯すところだった」 

 ようやく顔を上げて、マキと視線を合せたが… 
 相模の言葉がマキには気に入らなかった。


「僕は止めて欲しく無かった! だって驚いたけれど、スゴク自然な感じがしたし… 嫌でも無かったし…」

 羞恥で頬を赤らめながら、マキの気に入らなかった言葉を、相模に撤回して欲しくて、自分の気持ちを素直に伝えた。

 だが…


「ソレは君がまだ若く、経験が乏しいからだよ」

「そんなっ…! 違う!」
<確かに誰にもキスをされたコトが無かったけど、ソレとコレとは関係ない!!>

 自分の気持ちを否定されマキの中に、ジリジリと怒りが込み上げる。


「君がもっと経験を積んで… 恋愛もたくさんすれば、いずれ分かるコトだよ」
「恋愛なら、今しています! アナタが好きです!!」

<鯉山君に尋ねられた時は、まだ分からなかったけど… こうして本人を前にすると、よく分かる! エイジさんが、僕からほんの少し目を逸らすだけで、悔しくて泣きたくなるぐらい、僕はエイジさんが好きなんだ!!>


「私ではダメだよ… 君のコトが好きだけど、自信が無いんだ」

 フッ… と相模がマキから視線を逸らし、マキの胸がヂクリッ… と疼く。


「何ですかソレ!! 僕が子供だからバカにしているのですか?! 止め下さい、そういうの!!」

 興奮が頂点に達してしまい、マキは叫ぶように声を荒げてしまう。

 マキが興奮し、怒れば怒るほど、相模の脳裏に妻との悪夢が蘇り、冷静さを取り戻して行った。

 不躾な視線に耐え厳しい現実にウンザリしていたところへ、下劣なアルファに襲われ人間不信を深め、臆病になっていたマキと同様に…
 妻に自殺された相模もまた、オメガに対して慎重というよりも、むしろ臆病になっていたのだ。


「機械を通した付き合いだったから、今まで君と上手くやって来れたのだろうね… 実際に会うと、私は自分を上手く制御できなかった… コレは単にフェロモンの影響だけでは無いんだ」

「ワケが分からない! 好きと言ったかと思えば、今度はダメだって?!」
<本当に何がどうして、エイジさんは僕を、突き離そうとするんだ?!>


「本当にスマナイ… 今は帰るよ、今夜連絡するから、その時にもう1度、話し合おう」

 


 大きな後ろ姿が、研究棟を曲がり見えなくなるまで見つめ続け…
 1人残されたマキは、途方に暮れた。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...